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【武富士役員責任追及訴訟】横浜地裁判決②

【武富士役員責任追及訴訟・横浜地裁平成24年7月17日第6民事部判決】
8月6日付当ブログでも紹介したとおり,横浜地裁第6民事部は,平成24年7月17日,武富士の旧役員に対する不法行為責任を認める判決を言い渡しました。


【事案の概要】
・原告A~Fが株式会社武富士の取締役であった被告に対し,不法行為または会社法429条1項に基づき損害賠償請求をした事案。被告は平成16年6月29日から平成22年5月17日まで武富士の代表取締役だった。


【判決の結論】
・原告A:請求棄却
 第1取引は平成7年9月1日まで,第2取引は平成9年7月28日から平成15年3月10日まで,第3取引は平成17年8月31日以降に分かれ696日,905日の中断期間がある。
 第1取引と第2取引は平成18年判決以前に終わっているから不法行為とはならない。
 第3取引だけだと引き直し計算をしても債務が残るので,不法行為とはならない。
・原告B~F:一部請求認容
 原告B・C・F:平成18年判決以降も取引があり,平成19年10月7日の時点では債務がなくなり過払金が生じていた→平成19年10月7日以降の弁済金が損害
 原告D:第1取引は平成7年9月1日まで,第2取引は平成13年10月25日以降の取引で2246日の中断期間がある。
 第1取引は平成18年判決以前に終わっているから不法行為とはならない。
 第2取引は平成18年10月30日時点では債務がなくなり過払金が生じていた→平成19年10月7日以降の弁済金が損害
 原告E:平成18年判決以降借入れなし→平成18年10月30日以降の弁済金が損害


【判示事項】
・平成17年4月1日~平成18年3月31日の事業年度における有価証券報告書の記載からすると,武富士は,平成18年判決により,多数存在する顧客の取引のほぼすべてについて,みなし弁済が成立する余地がほぼなくなったことを十分に認識していたと認められ,武富士の代表取締役であった被告も,遅くとも,上記有価証券報告書が関東財務局長に提出された平成18年6月30日の時点では,そのことを認識していたと認められる。
・平成18年6月30日の時点で,貸金業者である武富士の代表取締役であった被告においては,顧客に対する貸金の残高がいくらであるかどうかについて確認することが求められていたといえる。そして,同残高は,引直計算をすれば判明する。
・同一の貸主と借主との間で基本契約に基づき継続的に貸付けが繰り返される金銭消費貸借取引において,過払金が,弁済当時存する借入金債務に充当されることは,最高裁平成13年第1023号,第1033号平成15年7月18日第二小法廷判決・民集57巻7号895頁(以下「平成15年判決」という。)により明らかであり,過払金が弁済当時存しない借入金債務にも充当されることは,最高裁平成18年第1887号平成19年6月7日第一小法廷判決・民集61巻4号1537頁(以下「平成19年判決」という。)によって明らかになっている。
・引直計算に一定の時間が必要であるとしても,現に更生手続を進めるに当たって引直計算がされており,更生手続開始の申立てから引直計算の終了までは,約1か月(平成22年9月28日から同年10月末まで)であったこと,武富士は,金融庁の貸金業法施行規則の改正案の公表の8日後に同改正案に対応するためのプロジェクトを立ち上げ,その約4か月後には,従業員に対する指導を行っていると認められることなどの事情に照らすと,約4か月あれば,引直計算を行うことは十分可能であったと認められる。
・これらのことからすると,武富士及び被告は,平成19年判決がされた4か月後である19年10月7日の時点以降は,引直計算をして,貸金債権の存否を確認することが十分可能であり,それをすべきであったにもかかわらず,それをせずに,貸金の請求をし,弁済を受けていたから,その時点で貸金債権が存在しない顧客については,通常の貸金業者であれば貸金債権が事実的,法律的根拠を欠くものであることを容易に知り得たにもかかわらず,あえて顧客に対して貸金の返還を請求し,弁済を受領していたと認められる。
したがって,被告において,武富士が平成19年10月7日以降に貸金債権が存在しない顧客に対して貸金の返還を請求し弁済を受領した行為は,不法行為を構成すると認められる。
・平成18年判決以後に貸付けのない事案では,貸金債権があるかどうかは,平成18年10月30日の段階で,引直計算によって明らかにすることができたから,平成18年10月30日から平成19年10月6日までに顧客に対して貸金の返還を請求し弁済を受領した行為についても,不法行為を構成すると認められる。


【評釈】
・まず感じたことは,弁護士の立場からすると「代表取締役の認識の立証はかなり大変」という印象がありますが,この判決は公表されている有価証券報告書と最高裁判決という極めて立証のしやすいもので事実認定をしてくれていて,すごく立証がしやすいといえます。
・次に,この判決は明確に貸金業者の引き直し計算義務を認めていますが,ここまでいう判決は見たことがないですね。実際にみなし弁済規定が廃止された平成18年改正(施行は平成20年)がされるまでは,グレーゾーン金利として認められており実際に約定残で取引が行われていた現実があるのに,引き直し計算義務まで認める点は画期的といえます(画期的であるがゆえに,ここまではっきり判決に書いてしまうと高裁で逆転する可能性がでてきて怖いですが…こうはっきりいえるのは最高裁だけというのがこれまでの実務だったので)。
・ただ,この判決は平成15年7月18日判決(※)と平成19年6月7日判決(※)を大変重視し,これらの判決により充当関係等過払いの最高裁判例が固まったと考えているように読めますが,これらの判決を基準として4か月後とするのは線引きの仕方としては違う考えもあるように思えます。
・この訴訟は原告6名がそれぞれ事案が違ったので,裁判所の考えがよくわかり助かります。この判決を前提としても,責任が否定される人の説明がしやすいのでいいのですが,責任が否定される依頼者にその違いを納得してもらうのは難しそうです。


【※最高裁平成15年7月18日判決・最高裁平成19年6月7日判決】
・最高裁平成15年7月18日第二小法廷判決・民集57巻7号895頁
(事件番号:最高裁判所平成13年(受)第1032号)
URL:http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=52323&hanreiKbn=02
「同一の貸主と借主との間で基本契約に基づき継続的に貸付けが繰り返される金銭消費貸借取引において,借主が一つの借入金債務につき利息制限法所定の制限を超える利息を任意に支払い,この制限超過部分を元本に充当してもなお過払金が存する場合,この過払金は,当事者間に充当に関する特約が存在するなど特段の事情のない限り,民法489条及び491条の規定に従って,弁済当時存在する他の借入金債務に充当され,当該他の借入金債務の利率が利息制限法所定の制限を超える場合には,貸主は充当されるべき元本に対する約定の期限までの利息を取得することができない。」

・最高裁平成19年6月7日第一小法廷判決・民集61巻4号1537頁
(事件番号:最高裁判所平成18年(受)第1887号)
URL:http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=34782&hanreiKbn=02
「同一の貸主と借主との間でカードを利用して継続的に金銭の貸付けとその返済が繰り返されることを予定した基本契約が締結されており,同契約には,毎月の返済額は前月における借入金債務の残額の合計を基準とする一定額に定められ,利息は前月の支払日の返済後の残元金の合計に対する当該支払日の翌日から当月の支払日までの期間に応じて計算するなどの条項があって,これに基づく債務の弁済が借入金の全体に対して行われるものと解されるという事情の下においては,上記基本契約は,同契約に基づく借入金債務につき利息制限法1条1項所定の制限を超える利息の弁済により過払金が発生した場合には,弁済当時他の借入金債務が存在しなければ上記過払金をその後に発生する新たな借入金債務に充当する旨の合意を含んでいるものと解するのが相当である。」


【控訴審】
・本判決は控訴審で逆転し,原告側の完全敗訴になりました。

※上記の意見・判決などの正確性等を保証するものではなく,お使いになる方の判断と責任で情報の取捨選択をお願いします。
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by lawinfo | 2012-08-08 19:27 | 時事ネタ
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