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とある弁護士のひとりごと

とある弁護士のブログ。時事ネタや法律・判例情報・過払い訴訟の論点解説など
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【無罪判決】千葉地裁平成27年1月14日判決

【満員電車内における痴漢行為と無罪判決】
・千葉地裁平成27年1月14日刑事第1部判決・井筒径子裁判長
(事件番号:千葉地方裁判所平成26年(わ)第1077号・公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例違反被告事件)
URL:http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail4?id=84886


【公訴事実】
「被告人は,平成26年4月24日午後6時52分頃から同日午後6時56分頃までの間,千葉県習志野市(以下省略)所在のA電鉄株式会社B駅から同県八千代市(以下省略)所在の同会社C駅までの間を走行中の電車内において,乗客のD(当時20歳)に対し,同人の着衣の上からその乳房を手でもみ,もって公共の乗物において,女子を著しくしゅう恥させ,かつ,女子に不安を覚えさせるような卑わいな言動をした」


【求刑】
・懲役4月


【判示事項】
「(2) 犯人性について
 被害者は,被告人を犯人であると判断した理由について,もんでいる手の動きを1回見てから被告人の顔を確認したなどと供述している。そして,その手については,握ったり開いたりし,親指を除いた4本の指が触れている様子が分かる右手であるなどと供述しているのでこの点の信用性を検討する。
ア まず,犯人の手が被告人の手であると判断したのは,犯人の手の動きを見たことと,被告人の顔を確認したことであると供述するにとどまっており,犯人の手の動きと,被告人の顔がどのように結びつくのかについては述べていない。被害者が犯人の手が被告人のものであると判断した過程には飛躍があるといわざるを得ない
 検察官は,被害者は,左乳房をもんでいる手をたどると被告人の顔を確認することができた旨供述しており信用できると主張するが,この供述は,検察官の「その手は,おじさんから伸びていたおじさんの手であるということを確認したということですか。」という誘導的な質問に「はい。」と述べたものに過ぎず,被害者自らが被告人の右手であると判断した過程を具体的に述べたものとはいい難い。 また,被害者は,被害者の左胸を触った手は右手であると供述するが,右手と判断した根拠についても述べていない。被害者の供述から犯人の手が右手であったと認定することにも疑いが残る。 仮に犯人の手が右手であった場合,その手が被告人の手であるかについてさらに検討する。被害者が述べる被告人との立ち位置(被害者の正面で被告人が左向きに立っている状態)からすれば,被告人は,右腕を体に沿わせるようにして左側に伸ばさなければ被害者に接触することは難しい。被害者は,被告人は腕を組んでおり,右手の平は左肘の下にあって,肘に当たっていない状態であったと述べるが,少なくともそのような体勢を取らなければ,被害者に接触することは困難であるといえる。
 しかし,上記の被害者と被告人との位置関係や,足の踏み場もなく身動きができない満員電車の中であったことに照らすと,被害者には被告人の正面や右側はよく見えないはずである。しかし被害者は,被告人の体勢について,左手の平が右肘に当たっていた旨述べるなど,あたかも被告人の正面を見たように供述している。被害者が,胸を触った手が被告人の右手であることを前提に,被告人の体勢を推測したとの疑いが払拭できない。したがって,犯人の手が被告人の右手であると認定するには疑いを入れざるを得ない。 検察官は,被害者は一度胸に違和感を感じた後,再度左乳房に触れているのを気づいた状況からして意識的に左乳房をもんでいる右手やその右手の顔を確認したと認められること,また,被告人とは至近距離にあり視認状況にも特段の問題はないことから別人の手を被告人の手と見間違う可能性はないと主張する。しかし,既述のとおり,犯人の右手やその顔を確認した過程についての供述の信用性には疑いを入れる余地があり,また,車内の混雑状況や被告人と被害者との位置関係からすれば視認状況に問題がなかったともいえないというべきである。」


【雑感】
・この手の事件は事実認定が大変難しく,高裁でバンバン破棄されるので,1審裁判官も無罪判決を書くのはとても勇気のいることです。
・この裁判官は検察官の誘導的質問を誘導的だと非難していますが,実際の刑事裁判は堂々と誘導尋問で有罪を認定することが多く,ひどい裁判官は検察官が被害者の決定的な証言を聞き出せない場合は,自ら被害者に補充質問で証言させることがほとんどです。
・その意味でこの裁判官は大変公正な審理をしていますが,刑事裁判の最大の癌は高裁だとずっとこのブログで言ってきているとおり,この事件が検察官によって控訴されていれば高裁で破棄される可能性は十分にあると思います。


※上記の意見・情報などの正確性等を保証するものではなく,お使いになる方の判断と責任で情報の取捨選択をお願いします。

by lawinfo | 2015-03-01 23:07 | 刑事事件
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