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とある弁護士のひとりごと

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【刑事事件】神戸地裁平成28年4月12日判決

【前頭側頭型認知症と再度の執行猶予】
・神戸地裁平成28年4月12日第2刑事部判決・長井秀典裁判長
(事件番号:神戸地方裁判所平成27年(わ)第970号・窃盗被告事件)
URL:http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail4?id=85931


【判示事項】
「被告人を診察したB医師は,被告人は前頭側頭型認知症を患い,その症状のひとつとして衝動を抑制しづらい状態にあり,本件犯行はその影響を受けていると証言している。同医師は,医学的検査の結果や被告人の行動傾向の分析など複数の根拠を示して説明しており,その意見は信頼できるものである。検察官は,診断の前提となる事実関係が適切に把握されておらず,標準的な診断基準に則った診断がなされていないなどと主張するが,同医師の証言内容を検討しても,事件記録や面談などの資料収集に関しても,専門的な知見に基づく診断に関しても,その意見の信頼性を失わせるような誤りがあるとすべき根拠は見当たらない。
 検察官は,被告人が周囲を確認してから商品を隠匿し,退店の際に周囲を何度も確認している事実を指摘し,その行動は病的なものではないと主張する。しかし,B医師の証言によれば,前頭側頭型認知症を患って衝動を抑制しづらい状態にあっても,通常は万引きが悪いことだとは理解しているというのであるから,被告人がそのような行動をしていることから直ちに同医師の診断が不合理であるとまではいえない。むしろ,上記のように手口が比較的単純でやや稚拙である点を,罰則があっても報酬に対する衝動を抑制しづらい状態にあったことの表れと見ることも可能と解される。
 以上によれば,被告人の認知症の症状が本件犯行に一定の影響を及ぼしていることは否定できず,被告人が本件犯行に及んだことに対する非難は,ある程度限定されるというべきである。
 そうすると,被告人の責任は,再度の執行猶予を付することが許されないほど重いものではない。」


【雑感】
・いい機会ですから,この「前頭側頭型認知症(ぜんとうそくとうがたにんちしょう)」という病名及び症状を覚えましょう。認知症というと,どうしてもアルツハイマー型が想起されますが,高齢者が繰り返し行う窃盗事件では,このタイプの認知症が疑われることが多いです。

・窃盗事件は微罪処分→起訴猶予→罰金刑→執行猶予→実刑と段階的に処分が上がっていくケースが多く,初期段階で早期に治療(症状の緩和)を受けさせ,再犯を防止できるようになるために,この病気への理解が一層深まることを祈念します。

・この件では,弁護人の十分な弁護活動があったため再度の執行猶予判決が出ていますが,なかなか裁判所は再度の執行猶予を認めません。お手本となるような弁護活動だと思われます。


※上記の意見・情報などの正確性等を保証するものではなく,お使いになる方の判断と責任で情報の取捨選択をお願いします。

by lawinfo | 2016-06-07 23:33 | 刑事事件
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