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【なりすまし捜査】鹿児島地裁平成29年3月24日加治木支部判決

【なりすまし捜査と違法収集証拠排除法則】
・鹿児島地裁平成29年3月24日加治木支部判決・小畑和彦裁判長
(事件番号:鹿児島地方裁判所加治木支部平成28年(わ)第34号・窃盗被告事件)
URL:http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail4?id=86677


【当事者の主張】
・弁護人
「警察官は,警察官の使用車両であることを秘した自動車内に経済的に困窮していた被告人が盗みたくなるような本件発泡酒等を配置することにより,被告人にいわゆる車上狙いの実行を働き掛け,被告人がこれに応じてその実行に出たところを現行犯逮捕したものであり,そのような捜査手法は国家が犯罪を作り出し,また捜査の公正を害するものであって違法であり,関連証拠は排除されるべき」
・検察官
「被告人には車上狙いの強い犯意があり,かつ通常の捜査手法のみでは被告人の検挙が困難であったことから,同捜査手法は任意捜査として許容される」


【判決要旨・捜査の違法性】
「なりすまし捜査は,任意捜査の一類型として位置付けられるところ,本件においてその捜査手法が許容されるか否かは,本件捜査の必要性やその態様の相当性等を総合的に考慮して判断するのが相当である。
 ところで,なりすまし捜査に類似する捜査手法にいわゆる「おとり捜査」があるが,おとり捜査が「捜査機関又はその依頼を受けた捜査協力者が,その身分や意図を相手方に秘して犯罪を実行するように働き掛け,相手方がこれに応じて犯罪の実行に出たところで現行犯逮捕等により検挙するもの」(最一小決平成16年7月12日・刑集58巻5号333頁)と定義され,相手方に対する犯罪実行の働き掛けを要素とするのに対し,なりすまし捜査ではそのような働き掛けは要素となっておらず,これらの両捜査手法はこの点において区別される。しかし,これらの両捜査手法は,本来犯罪を抑止すべき立場にある国家が犯罪を誘発しているとの側面があり,その捜査活動により捜査の公正が害される危険を孕んでいるという本質的な性格は共通しているから,おとり捜査が許容される場合として上記判例が示した要件,すなわち,①機会があれば犯罪を行う意思があると疑われる者を対象としていること,②直接の被害者がいない薬物犯罪等の捜査において,通常の捜査方法のみでは当該犯罪の摘発が困難であること,との要件は,両捜査手法の間の上記差異のためにその要件判断の厳格さに多少の差異があり得るにせよ,なりすまし捜査の必要性及びその態様の相当性に関する判断のあり方を具体化するものとして,なお有用であると解される。
(中略)密行性が高く犯罪事実の把握すら困難な薬物犯罪等とは異なり,車上狙いは,被害者の申告等により捜査機関が犯罪の発生をほぼ確実に把握できる種類の犯罪であって,証拠の収集や犯人の検挙が困難な犯罪類型ではない。
 また,本件を具体的に見ても,捜査対象者である被告人の住居は把握されている上,被告人の行動時間や行動範囲は概ね限定されており,かつその行動方法は徒歩又は婦人用自転車であるから,C警察官らにおいて被告人の行動を追跡することは比較的容易であったといえる。そして,これに加え,車上狙いは屋外で行われ,また自動車のドアの開閉を伴う点で一般に他者から観察しやすい犯罪であり,実際にもC警察官らには被告人が駐車車両の中を窓の外から覗き込んでいる様子を観察したことが何回かあることも考慮すると,仮に被告人が車上狙いの実行に出た場合,行動確認捜査中のC警察官らにおいてその犯行を現認することは十分可能であったというべきである。また,以上のような捜査方法によらず,新たな被害申告を受けた後で捜査に着手するとしても,本件について,通常の捜査手法ではその捜査を遂げるのが特に困難であると認めるべき事情も見当たらない
(中略)以上によれば,本件捜査は,なりすまし捜査を行うべき必要性がほとんどない以上,その捜査の態様のいかんにかかわらず,任意捜査として許容される範囲を逸脱しており,国家が犯罪を誘発し,捜査の公正を害するものとして,違法であるといわざるを得ない。」


【判決要旨・証拠能力】
「本件ではなりすまし捜査を行うべき必要性がほとんどなく,適法手続からの逸脱の程度は大きいといえること, 前記のとおり,本件捜査により国家が犯罪の発生を一定程度促進する結果となってしまっていること, C警察官らは,地道な捜査を厭い,手っ取り早く被告人を検挙しようと考えて安易に本件の違法捜査に出たものであり,同警察官らには捜査方法の選択につき重大な過失があったといえること, 本件がそれほど重大な犯罪に関するものではないこと C警察官らには,被告人の検挙においてなりすまし捜査を行った事実を捜査書類上明らかにせず,また公判廷においても同事実を否認する内容の証言をするなど,本件捜査の適法性に関する司法審査を潜脱しようとする意図が見られること等に照らすと,その違法は重大であるといわざるを得ない。
 また,本件捜査の性質に照らすと,今後も本件と同様の違法捜査が繰り返し行われることは大いにあり得るところであるから,本件捜査により獲得された証拠を許容することは,将来における違法捜査の抑制の見地からして相当でないというべきである。」


【雑感】
・新しい刑事訴訟法上の論点の誕生でしょうか。おとり捜査の違法性については議論がありましたが,なりすまし捜査については,あまり聞いたことがありません。特に,この判決で注目されるのは,無罪判決が出たことではなく,検察が控訴を断念したことです。判決書でC警察官が偽証していると強く非難されている(15頁)ことから,検察としては上にもっていきたくなかったのかもしれません。
 なお,このような重大な行為について警察官が偽証している以上,裁判所は偽証罪で刑事告発すべきです。公務員には告発義務(刑訴法239条2項)があるため,裁判所が検察に告発し,襟を正すべきです。偽証罪は検察が敵性証人がウソをついた場合にのみ起訴する犯罪(検察が気に食わないもののみ起訴される)であり,明らかに適切な運用がなされているとは思えません。判決書で認定されている以上,鹿児島地裁として刑事告発すべきです。

・この判決は司法試験の刑事系の論点としては,絶好の題材といえるでしょう。特に,おとり捜査との比較の視点,違法性を論じる際の裁判所の事実認定がかなり詳しくされていることから,受験生はあてはめの仕方も含めしっかり勉強しておくとよいでしょう。

・この無罪判決という結論は,法律家以外では理解されていないようです。確かに,実際に物を盗んでいるので,無罪という結論について,理解を得るの難しいでしょう。
 しかし,今回は家の中でこそこそ隠れて犯罪が行われた事案ではなく,外で行われた車上荒らしの事案で,被疑者の住所まで警察は把握していた事案です。
 ここまでわかっていて普通の捜査で逮捕できないのは,鹿児島県警は「捜査能力が皆無」と言われても仕方がありません。普通の捜査で逮捕できないから,えさをわかりやすく仕掛けたなんてさすがに情けないの一言です。例えていうのなら,ネズミがすばしっこくて捕まえられないので,チーズを罠付きで設置し,そのチーズを食べに来たネズミが罠にはまったからようやく捕まえられたというところです。警察はもう少し頭を捜査能力を身につけてほしいものです。

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by lawinfo | 2017-04-14 23:48 | 刑事事件
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