とある弁護士のひとりごと

とある弁護士のブログ。時事ネタや法律・判例情報・過払い訴訟の論点解説など
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カテゴリ:損害賠償請求( 10 )


【飲酒禁止】福岡地裁平成28年3月29日判決

【飲酒禁止】
・福岡地裁平成28年3月29日第3民事部判決・青木亮裁判長
(事件番号:福岡地方裁判所平成26年(ワ)第1954号・損害賠償請求事件)
URL:http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail4?id=85945

【請求の趣旨】
「被告は,原告に対し,1円及びこれに対する平成24年5月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。」


【判示事項】
「地方公務員の上司は,職員に対し,適正な公務を確保するために必要とされる範囲内で,職務と直接関係しない,身分上の命令を発することができると解される(地公法32条参照)ところ,地方公務員は,信用失墜行為を行わない義務を負っているから(同法33条),上司は,飲酒による不祥事を防止することによって適正な公務を確保するという目的のために,上記のような命令に至らない指導,教育を行うことも当然に許容されると解される。
 そして,教育委員会の職員は,その身分について,原則として地公法の定めるところによるとされており(地教行法22条),教育長は,所属の職員を指揮監督するものとされている(同法20条1項)から,教育長は,市教委所属職員に対し,上記のような命令に至らない指導,教育を行うことができるものと解される。しかし,指導,教育の趣旨目的,経緯,制約される利益の程度,手段としての相当性等を考慮し,当該指導,教育が不合理である場合には,権限を逸脱,濫用したものとして違法になると解すべきである。
 上記認定事実によれば,教育長通知の目的は,所属職員の飲酒に対する意識を改善することによって,職員による飲酒の上での不祥事を未然に防止し,市民からの信頼を回復することにあると認められるが,前記のとおり,福岡市においては,再三の取組にもかかわらず,市教委所属の者を含む職員による飲酒の上での不祥事が続いていたこと,飲酒による不祥事は,飲酒の習慣があれば誰についても起こり得ることからすれば,職員全体が一体となって意識改革を図る必要があったということができ,教育長通知には目的の正当性,必要性が認められる。

 したがって,前記の経緯により教育長が教育長通知を発出した行為が,不合理なものとはいえず,権限の逸脱,濫用があるとはいえない。」


【雑感】
・なんで遅損金も請求しているのか…っと,どうでもいいことが一番気になりました。
請求額が1円なので,これにいくら遅損金を付けてもほとんど金額は変わらず,遅損金を請求する意味はあまりありません。

・この請求額は社会的な耳目を引くこのような事件でなければ,濫訴として却下されてもおかしくない請求金額です。いくら,訴状審査段階で訴えの利益なしとして却下されないようにするためとはいえ,本気度が疑われる(どうせ負けることが最初からわかっている)金額です。

・その割に,原告本人尋問も行われているようであり,裁判所としても意味のある事件として,判決を書きたかったということかもしれません。

・私のような悪党は,2円の受領を事前に原告に書面で求め,受領拒絶された時点で供託し,第1回口頭弁論期日でその証拠を提出して,請求棄却判決を求めると思います(そうすれば,被告は事実関係を争っているとしながらも,その余について判断するまでもなく,弁済がされているから請求棄却だという判決を書く裁判官もいるでしょう)。このような悪党もいることから,このような訴訟のやり方はいずれにしても感心しません。


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by lawinfo | 2016-06-14 23:18 | 損害賠償請求

【取調べ違法】大阪地裁平成28年3月25日判決

【取調べ違法】
・大阪地裁平成28年3月25日第16民事部判決・森木田邦裕裁判長
(事件番号:大阪地方裁判所平成27年(ワ)第1715号・損害賠償請求事件)
URL:http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail4?id=85887


【判示事項】
「(エ)高齢者である原告を侮辱する言動
 B警察官は,前記(1)シのとおり,「うるさいな。人の揚げ足ばっかりとって。80まで生きてそれか。くだらんな,不毛や。俺もこんなんなんのかな。」「人間やっぱり年っていうたらプライドだけが残るな。」などと発言しているところ,発言の経緯からすると,B警察官が話を聞いてくれないから供述しないと述べた原告の態度を非難するために,原告が高齢者であるからプライドだけが残っているなどと侮辱したものというべきである(前記(1)シ)。原告は,B警察官の見立てに対して反論しようとしたところ,B警察官から反論を聞かない旨言われたのであって(前記(1)シ),かかる経緯からすれば,原告が自らへの嫌疑を否定するために,B警察官が言い分を聞いてくれるまで供述を拒否することは,不当なものとはいえず,B警察官の発言の揚げ足をとるものであるともいえない。そして,B警察官の上記発言が,前記(ウ)のような原告の人生を全否定するような発言に引き続いてなされていることも考え併せると,殊更に原告の人格を攻撃する態様でなされた不当な取調べであったというべきである。」

「上記のとおり,原告は,9月11日の取調べにおいて,B警察官から供述や自白を強いられるような言動を受け,自らの人生を否定するかのような侮辱的で不当な人格攻撃にわたる発言を受けたこと,また,同日の取調べ後に,自らの意思に反して指印を強いられ,11月7日の取調べにおいて,供述調書への追記も不当に拒絶されたことなど,国賠法条1条1項の適用上違法というべき行き過ぎた犯罪捜査により,その人格権を侵害されたものと認められる。ただし,証拠(甲15,16)によれば,9月11日の取調べにおいて,原告は,その持ち前の精神的な強さをもって若いB警察官と対峙し,丁々発止のやり取りを展開する場面もあり,自白するまでに精神的に追い込まれたとはいえないこと等をも併せ考慮すれば,原告が人格権を侵害されたことにより受けた精神的苦痛に対する慰謝料としては,100万円を認めるのが相当である。」


【雑感】
・この手の事件で100万円が認められるのは非常に稀で,裁判所は警察のやったことが違法であると事実認定することすら躊躇します。その意味で,勇気のある判断なのかもしれません。

・この手の事件では,請求を認める場合でも仮執行宣言をビビってつけない裁判官も多いですが,これはつけてますね。

・この判決書の損害論の部分のただし以下(40頁)の「原告は,その持ち前の精神的な強さをもって若いB警察官と対峙し,丁々発止のやり取りを展開する場面もあり,自白するまでに精神的に追い込まれたとはいえないこと等」というくだりが笑えました。大阪らしいやり取りですね。請求額200万円を認容額100万円に落とす理由付けは,もう少し別の表現があったのではないかと思います。


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by lawinfo | 2016-05-26 23:15 | 損害賠償請求

【国家賠償】大阪地裁平成27年4月14日判決

【警察官の職務犯罪に対する賠償金額】
・大阪地裁平成27年4月14日第24民事部判決・増森珠美裁判長
(事件番号:大阪地方裁判所平成26年(ワ)第4141号・損害賠償請求事件)
URL:http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail4?id=85117


【事案の概要】
・覚せい剤取締法違反の被疑事実で逮捕されたウガンダ共和国国籍の原告が,大阪府警の警察官による取調べの際,同人から暴行を受けた等と主張し,国家賠償法1条1項に基づき,大阪府に対し,慰謝料500万円等の支払を求めた事案


【判示事項】
「争点(2)(原告の損害額)について
 上記1に認定したとおり,Bは,取調べを担当する警察官という立場で,身柄を拘束された被疑者である原告に対し,3日間にわたる取調べの最中に上記のような暴言,暴行を行ったもので,Bによる本件各行為は強い非難に値するものというべきである。他方で,本件各行為は,暴行の程度としては比較的軽いものであって,これにより原告が傷害を負ったというような事実は認められず,原告に強い身体的苦痛を与えるようなものでもなかったことが認められる。これらに加えて,本件各行為に至る経緯,行為の態様,その他本件に現れた一切の諸事情を総合勘案すれば,Bの本件各行為によって原告が被った精神的苦痛を慰謝するための金額としては,30万円と認めるのが相当である
 そして,Bが平成23年8月29日,原告に対し,本件に関する慰謝料として30万円を支払ったことは当事者間に争いがないから,原告の被告に対するBの本件各行為を理由とする損害賠償請求権は,同日,弁済により消滅したというべきである。」


【雑感】
・警察官の職務犯罪に対する損害賠償が30万円っていう感覚ってどうなんですかね。
・警察官がこの裁判官に同じことをして,30万円の損害賠償という判決を他の裁判官が書いたとしたら,この裁判官は納得するんでしょうか。それとも裁判官は高級だから30万円では足りないが,被疑者なら30万円で十分だとでもいうんでしょうか。国家権力が職務犯罪を犯しているのであるから,襟を正して必要なことをすべきでしょう。

・しかも,実際に警察官が30万円払ったから違法な行為があったと認定しているだけで,金を払っておらず検察官の調書もなければ,おそらくこの裁判体は暴行の事実すら認定しなかったんでしょう。

・特別公務員(裁判官・検察官・警察官)に対する裁判は,刑事・民事とも裁判官が参加しない裁判所を作るべきで,裁判官がやることにはいつも疑問を感じています。特別裁判所の設置禁止との絡みでは,2審は高裁につなげれば解決するわけだから,それで問題ないと思っています(家庭裁判所がその例)。

・ちなみにヘイトスピーチの判決で高額な賠償が認められた根拠は人種差別撤廃条約でしたが,この件は外国人への明らかな差別を含むものですから,たった30万円で十分と言うのはあの判決と整合性がとれているのでしょうか。少なくともヘイトスピーチは肉体的な打撃を与えおらず,ここまで直接的な攻撃をしている事案との整合性がとれるのか疑問が残ります。


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by lawinfo | 2015-05-27 23:32 | 損害賠償請求

【工作物責任】札幌地裁平成27年3月26日判決

【野球のファウルボールと工作物責任】
・札幌地裁平成27年3月26日民事第3部判決・長谷川恭弘裁判長
(事件番号:札幌地方裁判所平成24年(ワ)第1570号・損害賠償請求事件)
URL:http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail4?id=85019

【事案の概要】
・原告が,「札幌ドーム」の1塁側内野席において,平成22年8月21日行われたプロ野球の試合を観戦中,打者の打ったファウルボールが原告の顔面に直撃して右眼球破裂等の傷害を負った事故について,被告らがファウルボールから観客を保護する安全設備の設置等を怠ったことが原因であるなどと主張し,①本件試合を主催し,本件ドームを占有していた被告株式会社北海道日本ハムファイターズに対し,a 工作物責任(民法717条1項),b 不法行為(民法709条),c 債務不履行(野球観戦契約上の安全配慮義務違反)に基づき,②指定管理者として本件ドームを占有していた被告株式会社札幌ドームに対し,a 工作物責任(民法717条1項),b 不法行為(民法709条)に基づき,③本件ドームを所有していた被告札幌市に対し,a 営造物責任(国家賠償法2条1項),b 不法行為(民法709条)に基づき,連帯して,本件事故による4659万5884円の損害賠償を請求した事案。


【判示事項】
「プロ野球の試合の観客に求められる注意義務の内容は,試合の状況に意識を向けつつ,グラウンド内のボールの所在や打球の行方をなるべく目で追っておくべきであるが,投手が投球し,打者が打撃によりボールを放つ瞬間を見逃すことも往々にしてあり得るから,打者による打撃の瞬間を見ていなかったり,打球の行方を見失ったりした場合には,自らの周囲の観客の動静や球場内で実施されている注意喚起措置等の安全対策を手掛かりに,飛来する打球を目で捕捉するなどした上で,当該打球との衝突を回避する行動をとる必要があるという限度で認められるのであって,かつそれで足りるというべきである(例えば,高く打ち上がり飛行時間も長いいわゆるフライ性の打球について,観客がその所在を見失ったりした場合に,注意喚起の措置や周囲の状況等から当該打球を目で捕捉して,これとの衝突を回避する義務があるとすることは相当であり,漫然と回避行動をとらなかった者は,プロ野球の試合を観戦する際に求められる基本的な注意義務を怠ったものと解されよう。)。」


【雑感】
・観客に注意義務を認めるのはさすがに疑問があります。この裁判体は最終的には原告に対する損害賠償請求を肯定していますが,観客は常に気をはってスポーツ観戦をしなければいけないというのはいくらなんでも非常識でしょう。
・この裁判体はいろいろな事情を拾って観客を勝たせてあげたいという思いは伝わってきますが,いろいろなことに手を広げた結果,あまりすっきりとした判決になっていない気がします。


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by lawinfo | 2015-03-31 23:01 | 損害賠償請求

【国家賠償】大阪地裁平成26年11月28日判決

【警察官による暴行肯定】
・大阪地裁平成26年11月28日第12民事部判決・古谷恭一郎裁判長
(事件番号:大阪地方裁判所平成23年(ワ)第8452・損害賠償請求事件)
URL:http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail4?id=84716


【事案の概要】
・野宿生活をしていた原告が,平成22年11月16日,自転車でアルミ空缶を運搬していたところ,原告に対し職務質問を行おうとした大阪府甲警察署の警察官が,同人が乗っていた地域活動用単車を原告の自転車に幅寄せするなどして原告を路上に転倒させ,更に,これに抗議した原告に対し,原告の肩を両手で掴んで投げ飛ばす等の暴行を加え,原告に入院加療約3か月を要する右脛骨膝関節内骨折,肋骨骨折等の傷害を負わせたと主張して,甲警察署を設置する被告に対し,国家賠償法1条1項に基づき,損害賠償及び遅延損害金の支払を求めた事案。


【判示事項】
「この点につき,被告は,本件暴行行為の存在を否認した上で,A警察官の原告に対する有形力の行使は,現行犯人である原告を逮捕することに伴うものである旨主張するので,この点につき検討する。
被告は,原告が,A警察官に近づき,左手でA警察官の右肩付近を1度突き,右手を振り上げて殴りかかろうとし,更に,A警察官の胸ぐらをつかんできたため,A警察官は,原告を公務執行妨害罪の現行犯人と認め,左手で原告が振り上げた右手をつかみ,右手で原告の左手をつかんだ際に,原告がA警察官につかまれた手を振りほどこうとして暴れたため,原告の背中に自身の右手を回し,原告の体を自身の方に引き寄せたところ,後方に転倒しそうになったため,体を左にねじり,左に回転しながら,原告が下に,A警察官が上になって路上に転倒し,その後,A警察官は原告を公務執行妨害罪の現行犯人として逮捕したものであるから,A警察官の逮捕行為は正当な職務行為であり,違法な公権力の行使は存在しない旨主張し,これに沿う証拠として,現行犯人逮捕手続書(甲7),A警察官の陳述書(乙6),B警察官の陳述書(乙7),A証人及びB証人の各証言がある。
イ しかしながら,A警察官及びB警察官の各供述における原告の転倒態様に関する内容は,信用性の高いC鑑定意見と整合せず,原告の転倒態様に関する内容は本件事件の核心部分であることからすれば,A警察官及びB警察官の各供述は全体として信用することができない
ウ また,現行犯人逮捕手続書は,通常,逮捕行為後直ちに作成されるものであり,A警察官も,本件事件後,甲警察署に戻り逮捕手続書を作成した旨証言しているところ(A証人27頁),原告を現行犯人として逮捕したことを証する現行犯人逮捕手続書(甲7)においては,逮捕の年月は「平成22年12月11日」と印字され,その上に「平成22年11月16日」と手書きで訂正されていることが認められ,このことからは,同手続書が本件事件発生後直ちに作成されたものではないことが窺われる。また,A警察官の証言によれば,A警察官は,原告が甲警察署からF病院に治療に向かう際に同行していないにもかかわらず(A証人14頁),前記手続書には,A警察官がF病院において他の甲警察署の司法警察員に対し原告を引き渡した旨記載されており,前記手続書には明らかに事実と異なる内容が記載されている。以上からすると,現行犯人逮捕手続書(甲7)は信用性に乏しいと言わざるを得ない。
エ 以上からすれば,A警察官及びB警察官の各供述は信用することができず,現行犯人逮捕手続書(甲7)の記載内容も信用できないことから,(2)ア記載の各証拠をもって,前記第3の1の認定を覆すに足りず,他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。したがって,原告によるA警察官に対する暴行は認められず,公務執行妨害罪の成立要件が充足される余地はないから,公務執行妨害罪の成立可能性を前提とする被告の正当行為の主張は認められない。」


【雑感】
・一部とはいえ,警察官による暴行を裁判所が認めた事案。
こういう案件はきちんと国民に知らしめる必要があるので,取り上げていきます。
・最高裁が警察署名を伏せる必要はないでしょう。公務員がおかしなことをやったんだから,きちんと公表すべきです。
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by lawinfo | 2014-12-26 23:52 | 損害賠償請求

【津波被害と損害賠償②】仙台地裁平成26年3月24日判決

【津波被害と損害賠償②】
・仙台地裁平成26年3月24日第2民事部判決・山田真紀裁判長
(事件番号:仙台地方裁判所平成23年(ワ)第1753号・損害賠償請求事件)
URL:http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=84106&hanreiKbn=04


【事案の概要】
・原告らが,地方公共団体である被告に対し,被告の設置し運営する保育所において保育を受けていた原告らの子らが東日本大震災後の津波により死亡したことについて,主位的に被告の保育委託契約の債務不履行を主張し,予備的に同契約の付随義務である安全配慮義務の違反(予備的請求1)又は国家賠償法上の違法及び過失(予備的請求2)を主張して損害賠償求めた事案。


【主文】
「1 原告らの請求をいずれも棄却する。
 2 訴訟費用は原告らの負担とする。」


【判示事項】
「原告らは,本件保育士らにおいて,適宜情報を収集し,収集した情報に基づいて適切に判断すべき義務があり,当時の状況によれば,園児らを避難させる義務があったのに,園児らを,本件地震発生後1時間15分以上も園庭に待機させ,避難させなかったとして,このことが被告の本件保育委託契約上の債務不履行を構成する旨主張する。
 本件保育士らは,本件保育委託契約に基づく保育を実際に担当する者として,本件保育委託契約に基づき園児らを安全に保護者に引き渡すため,災害発生時に情報を収集し,収集した情報を基に,避難をさせる等の義務があるというべきであり,本件地震発生後に避難させる義務があったというためには,F保育所に津波が到達する危険性を予見することができたことが必要であると解される。そして,ここでの危険性の程度,同危険性を予見することができたかについては,前記(1)におけるU総務課長の予見可能性についての検討と同様であり,その他,本件保育士らにおいて,F保育所に津波が到達する可能性を認識し得る契機となる情報を入手し,又は入手し得たことをうかがわせる事情はなく,かえって,K保育士が被告の災害対策本部に赴き,災害対策本部の総務部長であったU総務課長から現状での待機,すなわち,避難を要しない旨の本件指示を受けたのであるから,本件保育士らに,F保育所に津波が到達する危険性を予見することができたということはできない。」


【雑感】
・この手の事件で,損害賠償を肯定することは非常に難しい事件です。
・仙台地裁に提起された東日本大震災をめぐる損害賠償請求事件は知っているところでは3つあり,ひとつは責任を認め【この事件】,この事件を含むもう2つは責任を否定しました。
・これで本件・七十七銀行訴訟は責任を否定,日和幼稚園訴訟は責任を肯定と判断が分かれました(七十七銀行訴訟と日和幼稚園訴訟は同じ齊木教朗裁判長です)。最終的には最高裁まで行く事件だろうと思われます。


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by lawinfo | 2014-04-08 23:49 | 損害賠償請求

【ヘイトスピーチ】京都地裁平成25年10月7日判決

【ヘイトスピーチ損害賠償請求事件】
・京都地裁平成25年10月7日判決
(事件番号:京都地方裁判所平成22年(ワ)第2655号・ 街頭宣伝差止め等請求事件)
URL:http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=83675&hanreiKbn=04


【認容額】
・1226万3140円


【判示事項(損害論のみ)】
「わが国の裁判所は,人種差別撤廃条約2条1項及び6条の規定を根拠として,法律を同条約の定めに適合するように解釈する責務を負うが,これを損害賠償という観点からみた場合,わが国の裁判所は,単に人種差別行為がされたというだけでなく,これにより具体的な損害が発生している場合に初めて,民法709条に基づき,加害者に対し,被害者への損害賠償を命ずることができるというにとどまる。
 しかし,人種差別となる行為が無形損害(無形損害も具体的な損害である。)を発生させており,法709条に基づき,行為者に対し,被害者への損害賠償を命ずることができる場合には,わが国の裁判所は,人種差別撤廃条約上の責務に基づき,同条約の定めに適合するよう無形損害に対する賠償額の認定を行うべきものと解される。
 やや敷衍して説明すると,無形損害に対する賠償額は,行為の違法性の程度や被害の深刻さを考慮して,裁判所がその裁量によって定めるべきものであるが,人種差別行為による無形損害が発生した場合,人種差別撤廃条約2条1項及び6条(※)により,加害者に対し支払を命ずる賠償額は,人種差別行為に対する効果的な保護及び救済措置となるような額を定めなければならないと解されるのである。」


【人種差別撤廃条約】
「第2条
1 締約国は、人種差別を非難し、また、あらゆる形態の人種差別を撤廃する政策及びあらゆる人種間の理解を促進する政策をすべての適当な方法により遅滞なくとることを約束する。このため、
(a)各締約国は、個人、集団又は団体に対する人種差別の行為又は慣行に従事しないこと並びに国及び地方のすべての公の当局及び機関がこの義務に従って行動するよう確保することを約束する。
(b)各締約国は、いかなる個人又は団体による人種差別も後援せず、擁護せず又は支持しないことを約束する。
(c)各締約国は、政府(国及び地方)の政策を再検討し及び人種差別を生じさせ又は永続化させる効果を有するいかなる法令も改正し、廃止し又は無効にするために効果的な措置をとる。
(d)各締約国は、すべての適当な方法(状況により必要とされるときは、立法を含む。)により、いかなる個人、集団又は団体による人種差別も禁止し、終了させる。
(e)各締約国は、適当なときは、人種間の融和を目的とし、かつ、複数の人種で構成される団体及び運動を支援し並びに人種間の障壁を撤廃する他の方法を奨励すること並びに人種間の分断を強化するようないかなる動きも抑制することを約束する。
2 締約国は、状況により正当とされる場合には、特定の人種の集団又はこれに属する個人に対し人権及び基本的自由の十分かつ平等な享有を保障するため、社会的、経済的、文化的その他の分野において、当該人種の集団又は個人の適切な発展及び保護を確保するための特別かつ具体的な措置をとる。この措置は、いかなる場合においても、その目的が達成された後、その結果として、異なる人種の集団に対して不平等な又は別個の権利を維持することとなってはならない。

第6条
 締約国は、自国の管轄の下にあるすべての者に対し、権限のある自国の裁判所及び他の国家機関を通じて、この条約に反して人権及び基本的自由を侵害するあらゆる人種差別の行為に対する効果的な保護及び救済措置を確保し、並びにその差別の結果として被ったあらゆる損害に対し、公正かつ適正な賠償又は救済を当該裁判所に求める権利を確保する。」


【雑感】
・当ブログでは,本事件の当否には一切立ち入りません。
・私が法律家として気になったのは,裁判所が人種差別撤廃条約の条項を根拠に高額な賠償金を認容している損害論の点のみです。
・おそらく,この裁判所は人種差別撤廃条約の6条を重視していると思われますが,この条項から直ちにここまでの高額な賠償責任が導かれるか疑問があります。特に,最後は裁判所の裁量だといってしまえば,何の基準もなく高額な賠償義務を課されることにもなりかねない点が懸念されます。
・被告側が控訴したようなので,控訴審の判断(損害論に限る)がとても楽しみです。


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by lawinfo | 2013-10-22 23:33 | 損害賠償請求

【国家賠償請求認容】横浜地裁平成25年9月6日判決

【部活動中の事故で負った傷害に対する国家賠償請求認容判決】
・横浜地裁平成25年9月6日第8民事部判決・遠藤真澄裁判長
(事件番号:横浜地方裁判所平成24年(ワ)第266号・損害賠償請求事件)
URL:http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=83663&hanreiKbn=04


【事案の概要】
・中学校の野球部に所属していた原告が,本件学校を設置管理する被告に対し,原告が本件野球部の練習において右眼にボールの直撃を受け,右網膜萎縮等の傷害を負った事故に関し,本件事故は本件野球部の顧問教諭らが防球ネットの配置を徹底せず,生徒に防具等を装着させず,複数箇所の同時投球を避ける等の指導監督義務を怠ったことに起因するなどとして,国家賠償法1条1項に基づき,損害賠償請求をした事案


【判示事項】
「①本件顧問教諭らは,朝練習に稀にしか出席せず(同(1)イ),放課後の練習においても不定期に出席するのみであり,また,他の教員をして出席させることもしておらず(同(1)イ),部員らに対し,定期的かつ計画的にフリーバッティング練習における安全上の注意点について注意喚起を行っていたとは認められないこと(同(2)イ),②本件事故時において本件顧問教諭ら及びその他の教員に代わり部員らを指導監督するキャプテン等の責任者を指定するなどしておらず(同(2)エ),本件顧問教諭らの指導を間接的に部員らに浸透させる態勢を整えていたとも認められないこと,③側方ネット及び本件ピッチングマシーンは,グラウンドのほぼ中心に位置しており(上記前提事実(3)ウ),多くの部員らにとって,本件フリーバッティング練習において側方ネットが設置されていないこと及び原告が本件ピッチングマシーン後方でボールを拾っていたことは,容易に気付き得たと認められるにもかかわらず,本件フリーバッティング練習は,側方ネットが設置されず,かつ,原告がボールを拾っている状態で,漫然と本件合図が出て開始されたこと(同(2)エ,上記認定事実(5)エ),④本件顧問教諭らは,本件野球部の1年生らの判断能力が未熟で,かつ,野球の経験が少ないことから,特に安全指導を行う必要性のあると考えられるにもかかわらず,何ら特別の安全指導を行っていないこと(同(2)ウ),⑤原告は,本件各ネットの設置について,本件顧問教諭らや本件野球部の上級生からの特別の指導によって学んだのではなく,同上級生が本件各ネットを設置しているのを真似て,分からない点について質問をすることにより覚えたにすぎないこと(同(4)イ)などからすれば,部員らは,本件各ネットが有する安全上の重要性について十分に理解しないまま,慣例としてこれを設置していたにすぎなかったと評価するのが相当であり,本件顧問教諭らが,部員らに対し,フリーバッティング練習におけるボール係等の生命身体の侵害の危険性について,その高度な危険性を理解させるに十分な理解を得させる指導を行っていたとは到底認められない
そうであれば,本件顧問教諭らの指導によって,フリーバッティング練習において必ず本件各ネットを適切な位置に設置し,また,ボール係が本件各ネットで保護されるよう,同ネットから出ることのないよう,指導することが徹底されていたとはいえない。
エ よって,本件顧問教諭らには,本件野球部の活動について部員らの安全を確保し,事故の発生を未然に防ぐべき義務に違反した過失が認められる。」


【雑感】
・国賠請求を認めた珍しい判決。なかなか認めてもらえないんですよね,この手の事件は。
・特に本件は,原告が日本スポーツ振興センターから本件見舞金として400万円受け取っていることから,これで納得すればといわれかねないこともあり,よく認めてくれたなぁと思います。


※上記の意見・情報などの正確性等を保証するものではなく,お使いになる方の判断で情報の取捨選択をお願いします。
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by lawinfo | 2013-10-21 23:13 | 損害賠償請求

【生活保護国賠訴訟認容判決】さいたま地裁平成25年2月20日判決

【生活保護国賠訴訟認容判決】
・さいたま地裁平成25年2月20日第2民事部判決・中西茂裁判長
(事件番号:さいたま地方裁判所平成19年(ワ)第1626号・国家賠償請求事件)
URL:http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=83239&hanreiKbn=04


【事案の概要】
・トラック運転手であった夫が白血病で入院し,妻がショックで精神科に通院するようになり,未成年者の子供たちだけで生活してきた。
 その子供たちが三郷市の福祉事務所に生活保護を申請したが,福祉事務所は約1年半にわたり,約10回も申請を認めず,ようやく認められた開始決定を約3か月後に打ち切った。
 原告ら(原告であった夫は裁判中に白血病で亡くなった)は福祉事務所長及び同所職員が,生活保護の申請をしたにもかかわらず申請として扱わず又は生活保護の申請を妨害し,生活保護の開始決定後も住宅扶助を支給しなかったうえ,市外への違法な転居を指導するとともに,転居後は生活保護を受けずに自活することを前提とした不当な取扱いをしたとして,国家賠償請求をした事案


【判示事項】
「イ 申請権侵害行為の有無
前記1(4)に認定したとおり,J職員は,原告Aに対して,働けるのであれば働いてくださいと述べるとともに,身内からの援助を確認するよう述べている。
原告Aは,平成17年2月1日の面接の際にも稼働能力の活用や身内からの援助を確認する旨を助言され,J職員との面接においては,生活費に困窮していることに加えて,原告C以外に就労が見込める者はおらず,原告Cの収入が増える見込みもない趣旨の話や,身内からの援助も難しい旨を述べていたことからすれば,上記J職員の発言は,原告らの就労による収入を増やし,身内からの援助もさらに求めなければ生活保護を受けることができないと原告Aに誤信させるものであると認められる。現に,原告Aは,面接後の同年4月13日に,東病院において,被告福祉事務所に行ってきたがダメと言われたと述べていることや,生活状況が好転していないにもかかわらずその後吉廣弁護士から生活保護を受けるよう助言を受けるまでの半年以上,被告福祉事務所を訪れていないことからすれば,原告AはJ職員の発言を受けて生活保護を受けられないと誤信したと認められる。原告Aは,このような誤信をしたことで,面接の当初は申請の意思を有しながら,申請をするにいたらなかったのであるから,上記J職員の発言は,申請権を侵害するものであると認められる
J職員は,原告Aの通院先のGソーシャルワーカーからの情報を含む過去の面接記録票を見た上で面接に臨んでおり,第1回目の「面接内容(主訴)」は「生活保護制度について知りたい」というものであるのに対し,2度目の今回は,その上で「生活費について」相談をしに来所したものと認識し,原告Aからの聴取内容によって,原告ら世帯にこれ以上の大幅な収入,援助が見込めず,生活費に困窮していることを認識していたのであるから,原告Aの申請の意思の存在を推知することが可能であるのに,上記の発言をしたのであるから,原告Aの申請権の侵害をしたことについて,少なくとも過失があると認められる。」


【雑感】
・原告代理人の先生方の努力に頭が下がる事件です。
・このさいたま地裁の一審判決に対し,三郷市は控訴しない方針とのことです。
・ただ,この判決が出た後に行政の対応が大きく変わることはないでしょう。


※上記の判決・意見などの正確性等を保証するものではなく,お使いになる方の判断と責任で情報の取捨選択をお願いします。
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by lawinfo | 2013-05-09 23:09 | 損害賠償請求

【名誉毀損】名古屋高裁平成24年12月21日民事第4部判決

【ブログの実名記事と名誉毀損】
・名古屋高裁平成24年12月21日民事第4部判決(渡辺修明裁判長)
(事件番号:名古屋高等裁判所平成24年(ネ)第771号・損害賠償請求控訴事件)
URL:http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=82969&hanreiKbn=04


【事案の概要】
・自らが管理するインターネット上のブログに掲載した相手方の実名を用いた記事について,公益目的及び真実性の証明がないとして,信用毀損による損害賠償請求が認容された事例


【損害額の認定】
「本件記事が掲載されたブログは,インターネットにより不特定多数の一般人に閲覧される可能性のあるものであるから,控訴人の具体的損害については,その損害の性質上その額を立証することは極めて困難であるといわざるを得ないし,本件においても,それが立証されているということはできない。したがって,本件においては,民事訴訟法248条(※)の規定により,裁判所が,口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき,相当な損害額を認定すべきである。」


【※民事訴訟法248条】
「損害が生じたことが認められる場合において、損害の性質上その額を立証することが極めて困難であるときは、裁判所は、口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき、相当な損害額を認定することができる。」


【雑感】
・ブログ等に実名で記事を掲載することはかなり危険な行為であることを認識した方がいいでしょう。


※上記の判決・情報などの正確性等を保証するものではなく,お使いになる方の判断と責任で情報の取捨選択をお願いします。
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by lawinfo | 2013-03-06 23:56 | 損害賠償請求