とある弁護士のひとりごと

とある弁護士のブログ。時事ネタや法律・判例情報・過払い訴訟の論点解説など
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カテゴリ:最高裁( 60 )


【検索履歴削除】最高裁平成29年1月31日決定

【犯罪前科のGoogle検索履歴の削除請求の可否】
・最高裁平成29年1月31日第三小法廷決定
(事件番号:最高裁判所平成28年(許)第45号・投稿記事削除仮処分決定認可決定に対する抗告審の取消決定に対する許可抗告事件)
URL:http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=86482


【決定要旨】
「検索事業者が,ある者に関する条件による検索の求めに応じ,その者のプライバシーに属する事実を含む記事等が掲載されたウェブサイトのURL等情報を検索結果の一部として提供する行為が違法となるか否かは,当該事実の性質及び内容,当該URL等情報が提供されることによってその者のプライバシーに属する事実が伝達される範囲とその者が被る具体的被害の程度,その者の社会的地位や影響力,上記記事等の目的や意義,上記記事等が掲載された時の社会的状況とその後の変化,上記記事等において当該事実を記載する必要性など,当該事実を公表されない法的利益と当該URL等情報を検索結果として提供する理由に関する諸事情を比較衡量して判断すべきもので,その結果,当該事実を公表されない法的利益が優越することが明らかな場合には,検索事業者に対し,当該URL等情報を検索結果から削除することを求めることができるものと解するのが相当である。
 これを本件についてみると,抗告人は,本件検索結果に含まれるURLで識別されるウェブサイトに本件事実の全部又は一部を含む記事等が掲載されているとして本件検索結果の削除を求めているところ,児童買春をしたとの被疑事実に基づき逮捕されたという本件事実は,他人にみだりに知られたくない抗告人のプライバシーに属する事実であるものではあるが,児童買春が児童に対する性的搾取及び性的虐待と位置付けられており社会的に強い非難の対象とされ,罰則をもって禁止されていることに照らし,今なお公共の利害に関する事項であるといえる。また,本件検索結果は抗告人の居住する県の名称及び抗告人の氏名を条件とした場合の検索結果の一部であることなどからすると,本件事実が伝達される範囲はある程度限られたものであるといえる。
 以上の諸事情に照らすと,抗告人が妻子と共に生活し,前記1(1)の罰金刑に処せられた後は一定期間犯罪を犯すことなく民間企業で稼働していることがうかがわれることなどの事情を考慮しても,本件事実を公表されない法的利益が優越することが明らかであるとはいえない。」


【雑感】
・この決定はいろいろなところに影響を及ぼしそうな決定です。

・個人的には忘れられる権利は重要なものと考えており,ヨーロッパでは徐々に浸透しつつあります。一度犯罪者としてインターネット上で名前が出てしまえば一生前科者として名前が知られることは,更生にとってあまり好ましいとはいえません。また,今後この判例の影響により,検索結果の削除請求を全体として認めない方向で進むと,一生名前が消えないなら,違法に養子縁組または偽装結婚をして名前を変えるということも起こりかねません。

・今回の決定は最高裁らしく,どの要素を重視して読めばいいのか一義的に明らかではなく,児童買春がダメなのか,性犯罪一般がダメなのか,はたまた,社会的関心が高ければ削除要求は認められないのかなど,今後の下級審の判断に委ねますだけだと(基準が雑多すぎる),この決定が出た後も下級審の判断が分かれる可能性は十分あると思います。性犯罪の場合はかなり厳しくなるでしょう。個人的には窃盗の場合はどうなのか気になります。

・この決定が出るまでは,一般的には刑罰の程度(起訴されたかどうか,罪状の重さ)とマスコミにどの程度出たか,犯罪後どの程度時間が経過したかが重視されていたように思います。しかし,本件は罰金刑とどまり(ニュース記事によるとこの件は略式で公判請求はされていない模様),犯罪から5年以上経過し,妻子とともに平穏に暮らしている者がずっと検索結果で犯罪者扱いされ続けるのはそれでいいのかなとも思います。まあ,この事案だと削除請求は認められなくても,氏の変更(戸籍法107条1項)により,妻の旧姓への変更を一度試みてみるのもありかもしれません(前科を消す目的の場合は認められないこともあります)。

・とまあ,いろいろ考えさせられる事案で,憲法の試験問題としては最適でしょう。


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by lawinfo | 2017-02-01 23:03 | 最高裁

【節税目的養子縁組】最高裁平成29年1月31日判決

【節税目的の養子縁組の有効性】
・最高裁平成29年1月31日判決
(事件番号:最高裁判所平成平成28年(受)1255号・養子縁組無効確認請求事件)
URL:http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=86480


【判決要旨】
「養子縁組は,嫡出親子関係を創設するものであり,養子は養親の相続人となるところ,養子縁組をすることによる相続税の節税効果は,相続人の数が増加することに伴い,遺産に係る基礎控除額を相続人の数に応じて算出するものとするなどの相続税法の規定によって発生し得るものである。相続税の節税のために養子縁組をすることは,このような節税効果を発生させることを動機として養子縁組をするものにほかならず,相続税の節税の動機と縁組をする意思とは,併存し得るものである。したがって,専ら相続税の節税のために養子縁組をする場合であっても,直ちに当該養子縁組について民法802条1号にいう「当事者間に縁組をする意思がないとき」に当たるとすることはできない。」


【雑感】
・最高裁は現状を覆すのが極端に嫌いで,影響が大きい事件はこのように追認するだけです。
まあ,この事件は最高裁がこういう判決を出すことは誰でもわかる事件なので,原審の東京高裁はなぜ養子縁組無効判決を書いたか不思議です。


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by lawinfo | 2017-01-31 23:00 | 最高裁

【心神喪失と公訴棄却】最高裁平成28年12月19日判決

【公判停止後訴訟能力の回復ない見込みがない場合の公訴棄却の可否】
・最高裁平成28年12月19日第一小法廷判決
(事件番号:最高裁判所平成27年(あ)第1856号・ 殺人,銃砲刀剣類所持等取締法違反被告事件)
URL:http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=86355


【問題点】
・被告人が公訴提起後心神喪失状態になり,公判が停止された後,被告人が回復見込みのない場合には,検察官は公訴を取り消す権限を有するが(刑事訴訟法257条),検察官が公訴を取り消さない場合に,裁判所が公訴棄却をする明文が存在しない。
 本件は第1審で公判停止後17年間経過した後,名古屋地裁岡崎支部は公判を再開し,公訴棄却の判決を言い渡したが,第2審名古屋高裁は公訴棄却を認めず,破棄差し戻しをした。これに対し,弁護人が上告した。


【参照条文】
・刑事訴訟法257条
「公訴は、第一審の判決があるまでこれを取り消すことができる。」


【判示事項】
「訴訟手続の主宰者である裁判所において,被告人が心神喪失の状態にあると認めて刑訴法314条1項により公判手続を停止する旨決定した後,被告人に訴訟能力の回復の見込みがなく公判手続の再開の可能性がないと判断するに至った場合,事案の真相を解明して刑罰法令を適正迅速に適用実現するという刑訴法の目的(同法1条)に照らし,形式的に訴訟が係属しているにすぎない状態のまま公判手続の停止を続けることは同法の予定するところではなく,裁判所は,検察官が公訴を取り消すかどうかに関わりなく,訴訟手続を打ち切る裁判をすることができるものと解される。刑訴法はこうした場合における打切りの裁判の形式について規定を置いていないが,訴訟能力が後発的に失われてその回復可能性の判断が問題となっている場合であることに鑑み,判決による公訴棄却につき規定する同法338条4号と同様に,口頭弁論を経た判決によるのが相当である。
 したがって,被告人に訴訟能力がないために公判手続が停止された後,訴訟能力の回復の見込みがなく公判手続の再開の可能性がないと判断される場合,裁判所は,刑訴法338条4号に準じて,判決で公訴を棄却することができると解するのが相当である。」


【雑感】
・この件は立法の不備といえば不備であるものの,有罪判決を下すことができないことが明らかであるにもかかわらず,検察官が何十年にもわたり公訴を取り消さなかっことがなによりの問題です。
・検察は遺族の処罰感情が大きかったからとコメントしているものの,いずれにしても裁判所が有罪判決がくだせないこと自体は法曹であれば誰にでもわかることであり,長く引き伸ばされることにより遺族が区切りをつけることができず,結局ストレスがたまり続ける結果になっただけで,かえって有害といえます。
 実際にもこの最高裁の判断で遺族はまた新たな不満を表明しており,検察の判断が本当に遺族のためになったのか甚だ疑問です。検察としては,責任は裁判所にあるとして遺族の不満のはけ口を検察に向けさせないためだけに公訴取消をしなかったのではないかと邪推してしまうほどです。これはただの責任逃れです。

・この問題とは別に法律問題としては,名古屋高裁が「検察官が公訴を取り消さないことが明らかに不合理であると認められる極限的な場合に当たる」場合は,公訴棄却にあたる可能性を指摘したうえで,本件はその場合に当たらないと判断していますが,本件はその極限的な場合にあたるといってもよかったのではないかとも思えます。
 この表現は職務犯罪を構成する極限的な場合以外は公訴提起が無効とならないという公訴権濫用論を受けた表現だと思われるものの,この議論はあくまで公訴提起を無効とする場面の問題で公訴取消の場面とはまったく状況が異なるため,そこまで極端な場合を想定する必要はないと思われます。実際に,名古屋高裁も「職務犯罪を構成する」という例示をつけていません。
 そのように考えると,第1審で公判停止後17年が経過し,統合失調症のみならず,脳委縮による認知機能の障害があり,回復見込みがないと客観的にいえる場合は,名古屋高裁がいうところの「極限的な場合」に該当するといえるのではないかと思います。


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by lawinfo | 2016-12-20 23:36 | 最高裁

【遺産分割の対象】最高裁平成28年12月19日大法廷判決

【遺産分割の対象】
・最高裁平成28年12月19日大法廷判決
(事件番号:最高裁判所平成27年(許)第11号・ 遺産分割審判に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件)
URL:http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=86354


【判例要旨】
「預貯金一般の性格等を踏まえつつ以上のような各種預貯金債権の内容及び性質をみると,共同相続された普通預金債権,通常貯金債権及び定期貯金債権は,いずれも,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく,遺産分割の対象となるものと解するのが相当である。
 以上説示するところに従い,最高裁平成15年(受)第670号同16年4月20日第三小法廷判決・裁判集民事214号13頁その他上記見解と異なる当裁判所の判例は,いずれも変更すべきである。」


【雑感】
・以前,このブログでも取り上げていた注目の大法廷による判例変更です。
 さんざん,家裁が対象外と言い続けていたにもかかわらず,「準共有」状態などと言い出し,当然分割のものと当然分割されない債権があるという一番わかりにくい結論をとることになりました。


【今後の手続】
・今後預金債権は相続人全員で行使しなければならないので,「共同相続人において被相続人が負っていた債務の弁済をする必要がある,あるいは,被相続人から扶養を受けていた共同相続人の当面の生活費を支出する必要があるなどの事情により被相続人が有していた預貯金を遺産分割前に払い戻す必要があるにもかかわらず,共同相続人全員の同意を得ることができない場合」は,「遺産の分割の審判事件を本案とする保全処分として,例えば,特定の共同相続人の急迫の危険を防止するために,相続財産中の特定の預貯金債権を当該共同相続人に仮に取得させる仮処分(仮分割の仮処分。家事事件手続法200条2項)等を活用する」ことになるそうです。
 ここまで変更になると実務上手続が大変になるだけで,かえってよくないのではないかと思います。

・私は大橋「意見」(判決の結論として,破棄差戻の結論自体は一緒だが,理論の根本がまったく多数意見とは異なり,事実上の反対意見とさえいえる)に賛成です。多数意見はこの件だけの解決を考えているようですが,統一的な解釈基準を設定するのが最高裁の役割のはずです。これではまた問題が起きた時に,そのとき考えようといっているようなもので,実務家の意見とは到底思えません。

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by lawinfo | 2016-12-19 23:37 | 最高裁

【最高裁】平成28年10月19日大法廷弁論

【預貯金は遺産分割の対象か】
・最高裁大法廷に回付されたこの件は,10月19日に弁論が開かれます。

・今回は憲法判断があるわけではないので,最高裁が,預貯金は遺産分割の対象ではないとしていた過去の判例を変更すると考えられます。

・遺産分割の実務では,預貯金も遺産分割の対象とする旨の合意ができれば,預貯金も対象となっており,実務上も広くそのように行われてきました。

・ただ,合意ができない場合,預貯金だけ遺産分割の対象とならないという説明を依頼者にしてもまったく理解されなかったので,変更があればわかりやすくなるためよいと思います。

・今回判決でどの程度踏み込んだ判断をするかが今後注目されます。一部は遺産分割の対象だが,一部は対象ではないという非常にわかりにくい判断をしないことを祈念してやみません。

・遺産分割は当事者同士で行われ,弁護士を入れない事案も多いため,当事者にとってすっきりしない結論は混乱をまねくだけです。わざわざ過去の先例を見れば結論が明らかな事案で,第一小法廷が大法廷に回付したということは,そういうわかりやすい判断に統一しようという意思があったからだと期待しています。

・この件は実務にも大きな影響を与える最高裁判例の変更事案となると予想されるので,非常に注目しています。

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by lawinfo | 2016-10-18 23:18 | 最高裁

【最高裁】ハンセン病を理由とする開廷場所指定に関する調査報告書

【ハンセン病を理由とする開廷場所指定に関する調査報告書・最高裁判所裁判官会議談話】
・国がこぞって人権侵害をし,それに裁判所も加担していたことを認める報告書は,今後同様な人権侵害にわれわれが加担しないことの戒めとして,法曹関係者は一読しておくべきでしょう。

URL:http://www.courts.go.jp/about/siryo/hansenbyo_chousahoukokusyo_danwa/

・今考えれば,このような謝罪も,ひとつの地裁判決(熊本地裁平成13年5月11日判決・熊本地方裁判所平成10年(ワ)第764号,第1000号,第1282号,平成11年(ワ)第383号)が国家賠償請求を認容したからこそです。

・内閣は平成13年5月25日付内閣総理大臣談話で,国会は平成13年6月7日衆参両院決議で,上記熊本地裁判決後迅速に対応しているのに,最高裁は,それから約15年もたって声明を出しているところに,裁判所の後ろ向きな姿勢が看てとれます。

・特に,有識者委員会は明確に憲法違反を指摘しているのに,最高裁は裁判所法違反というレベルに抑え,意地でも憲法違反を犯したとは言いたくないようです。


・最後に,有識者委員会意見の「はじめに」の部分は,なんでこんなに最高裁を持ち上げているんですかね。こんな最高裁の遅きに失する対応に対し,「敬意を表する」などというのは,この人たちの感覚に違和感を覚えざるを得ません。もちろん,この部分は最高裁事務総局の作文なのでしょうが,これを不要として削除をする決定をしなかった下記有識者委員会もどうかと思います。特に,学者や研究者,元裁判官はともかく,弁護士枠の人は何を考えているんでしょうかね。

【有識者委員会委員】
座長 井上英夫・金沢大学名誉教授
    石田法子・平成26年度大阪弁護士会会長
    大塚浩之・読売新聞論説副委員長
    川出敏裕・東京大学大学院法学政治学研究科教授
    小西秀宣・元東京高裁部総括判事・元法務省人権擁護局長


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by lawinfo | 2016-04-25 23:51 | 最高裁

【損賠否定】最高裁平成28年4月21日判決

【未決勾留者と安全配慮義務】
・最高裁平成28年4月21日判決
(事件番号:最高裁判所平成26年(受)第755号・損害賠償請求事件)
URL:http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=85846


【判示事項】
「未決勾留は,刑訴法の規定に基づき,逃亡又は罪証隠滅の防止を目的として,被疑者又は被告人の居住を刑事施設内に限定するものであって,このような未決勾留による拘禁関係は,勾留の裁判に基づき被勾留者の意思にかかわらず形成され,法令等の規定に従って規律されるものである。そうすると,未決勾留による拘禁関係は,当事者の一方又は双方が相手方に対して信義則上の安全配慮義務を負うべき特別な社会的接触の関係とはいえない。したがって,国は,拘置所に収容された被勾留者に対して,その不履行が損害賠償責任を生じさせることとなる信義則上の安全配慮義務を負わないというべきである。」


【雑感】
・法律家らしいわかりにくいレトリックで,あんまりすっきりしませんね。

・じゃあ,国賠請求も控訴して,国賠も残しておいたら認めてくれたかというとそれもないんでしょうから(時効かどうかとも関係なく),結局損害賠償請求を認める考えはなかったと一言言っておいてくれた方がすっきりします。

・まあ,最高裁があえてこの事案をHPに掲載したのは,今後,未決勾留者の事案で,安全配慮義務構成をとってくれるなよ,国賠請求権の時効が過ぎたらおとなしく請求自体をやめろよという我々弁護士への戒めでしょう。


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by lawinfo | 2016-04-22 23:21 | 最高裁

【認知症と人身事故】最高裁平成28年3月1日判決

【認知症患者が起こした人身事故における家族の責任】
・最高裁平成28年3月1日第三小法廷判決
(事件番号:最高裁判所平成26年(受)第1434号,1435号・損害賠償請求事件)
URL:http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=85714


【判示事項】
「民法752条は,夫婦の同居,協力及び扶助の義務について規定しているが,これらは夫婦間において相互に相手方に対して負う義務であって,第三者との関係で夫婦の一方に何らかの作為義務を課するものではなく,しかも,同居の義務についてはその性質上履行を強制することができないものであり,協力の義務についてはそれ自体抽象的なものである。また,扶助の義務はこれを相手方の生活を自分自身の生活として保障する義務であると解したとしても,そのことから直ちに第三者との関係で相手方を監督する義務を基礎付けることはできない。そうすると,同条の規定をもって同法714条1項にいう責任無能力者を監督する義務を定めたものということはできず,他に夫婦の一方が相手方の法定の監督義務者であるとする実定法上の根拠は見当たらない。
 したがって,精神障害者と同居する配偶者であるからといって,その者が民法714条1項にいう「責任無能力者を監督する法定の義務を負う者」に当たるとすることはできないというべきである。」


【雑感】
・結論は誰もが予想したとおりでしたが,最高裁が家族の責任を否定する理屈をどうするかはとても関心をもっていました。

・私は監督義務者であることを認めて,予見可能性または結果回避可能性で切るのではないかと予想していましたが,多数意見が「監督義務者」性を否定するとは意外でした。
 実際に岡部喜代子裁判官の意見がまさにこの立場で,おそらくこの立場がこの判決が出るまでのスタンダードだったのではないかと思います。

・今回の第三小法廷は結論はともかく,各裁判官で微妙に立場に差があり,この事件が本当に難しい事件だたことを物語っていると思います。
 ただし,結論として家族の責任を認めた原々審及び原審の判断は明らかにおかしかったといえます。


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by lawinfo | 2016-03-01 15:57 | 最高裁

【認知症と人身事故】最高裁平成28年2月2日弁論

・以前,【このページ】でも取り上げたとおり,本日,最高裁第三小法廷で認知症と人身事故についての弁論が開かれました。

・判決期日が平成28年3月1日に指定されました。

・本件はJR東海側と家族側双方が上告している案件で,最高裁第三小法廷は二審判決を破棄するものと思われます。私の勝手な予想では,最高裁がこの事案の新しい規範を作り,その基準に合致しているか否かをさらに高裁で審理させるように,差し戻すのではないかと予想しています。

・家族側が弁論で主張したようですが,これで損害賠償義務が認められると認知症の高齢者を閉じ込めるしかなくなるというのは,まったくその通りだと思います。他方,損害を被った鉄道会社側の気持ちもわかります。結局のところ,このような確実に起こる事故については保険でまかなうしかなく,その保険料を鉄道利用者に転嫁することは仕方がないと思います。
 このようにいうと,何の関係もない自分たちが鉄道会社の保険料を事実上支払わされることになるとの批判がありえます。しかし,私は「何の関係もない」人はほとんどいないと思います。
 鉄道を利用しない人も,自分の家族が認知症を患い同じような事故を起こすことを完全に否定することはできないはずです。私はこのことで保険料分の鉄道料金が上がったとしても,特に異論はありません。


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by lawinfo | 2016-02-02 23:20 | 最高裁

【予備的相殺の抗弁の可否】最高裁平成27年12月14日判決

【時効消滅したことを条件とする反訴請求事件における予備的相殺の抗弁の可否】
・最高裁平成27年12月14日第一小法廷判決
(事件番号:最高裁判所平成25年(オ)第918号・ 不当利得返還請求本訴,貸金請求反訴事件)
URL:http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=85543


【事案の概要】
・Xは第1取引と第2取引の間が1年9か月あいていたが,一連を前提に過払金を請求した。貸金業者Yは取引の分断を主張し,第1取引については消滅時効を援用し,第2取引については貸金反訴請求をした。
Xは分断と判断され,第1取引の過払金返還請求権が時効にかかるならば,第2取引の貸金債権と第1取引の過払金返還請求権を対当額で相殺するとの意思表示をした。
・原審東京高裁は取引の分断と判断したが,相殺の抗弁については判断せず,Yの貸金請求等を認容した。


【主文】
「1 原判決のうち被上告人の反訴請求を認容した部分を破棄する。
 2 前項の部分につき,本件を東京高等裁判所に差し戻す。
 3 上告人のその余の上告を棄却する。
 4 前項に関する上告費用は上告人の負担とする。」


【判示事項】
「本訴において訴訟物となっている債権の全部又は一部が時効により消滅したと判断されることを条件として,反訴において,当該債権のうち時効により消滅した部分を自働債権として相殺の抗弁を主張することは許されると解するのが相当である。」


【雑感】
・原審の東京高裁が相殺の抗弁が許されないと判断したのか,単なる判断をし忘れたのかわかりませんが,当然に相殺の抗弁は許されるでしょう。
・最高裁が重複起訴禁止の点を挙げていることからすれば,これに触れると東京高裁は判断したのかもしれませんが,いずれにしても重複起訴禁止の趣旨に反しないことは明白なので,東京高裁の判断はまったく理解できません。

・まあ,別訴の場合の重複起訴禁止の判例(最高裁平成3年12月17日第三小法廷判決)があるため,本訴の場合は禁止されるのかという議論はありえ,民訴の本には掲載される判例かもしれませんが,まあ当然許されるでしょうというあっさりしたコメントが付される程度の事件でしょうね。


【参照】
・最高裁平成3年12月17日第三小法廷判決
http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=52737


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by lawinfo | 2015-12-16 23:23 | 最高裁