とある弁護士のひとりごと

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カテゴリ:刑事事件( 63 )


【なりすまし捜査】鹿児島地裁平成29年3月24日加治木支部判決

【なりすまし捜査と違法収集証拠排除法則】
・鹿児島地裁平成29年3月24日加治木支部判決・小畑和彦裁判長
(事件番号:鹿児島地方裁判所加治木支部平成28年(わ)第34号・窃盗被告事件)
URL:http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail4?id=86677


【当事者の主張】
・弁護人
「警察官は,警察官の使用車両であることを秘した自動車内に経済的に困窮していた被告人が盗みたくなるような本件発泡酒等を配置することにより,被告人にいわゆる車上狙いの実行を働き掛け,被告人がこれに応じてその実行に出たところを現行犯逮捕したものであり,そのような捜査手法は国家が犯罪を作り出し,また捜査の公正を害するものであって違法であり,関連証拠は排除されるべき」
・検察官
「被告人には車上狙いの強い犯意があり,かつ通常の捜査手法のみでは被告人の検挙が困難であったことから,同捜査手法は任意捜査として許容される」


【判決要旨・捜査の違法性】
「なりすまし捜査は,任意捜査の一類型として位置付けられるところ,本件においてその捜査手法が許容されるか否かは,本件捜査の必要性やその態様の相当性等を総合的に考慮して判断するのが相当である。
 ところで,なりすまし捜査に類似する捜査手法にいわゆる「おとり捜査」があるが,おとり捜査が「捜査機関又はその依頼を受けた捜査協力者が,その身分や意図を相手方に秘して犯罪を実行するように働き掛け,相手方がこれに応じて犯罪の実行に出たところで現行犯逮捕等により検挙するもの」(最一小決平成16年7月12日・刑集58巻5号333頁)と定義され,相手方に対する犯罪実行の働き掛けを要素とするのに対し,なりすまし捜査ではそのような働き掛けは要素となっておらず,これらの両捜査手法はこの点において区別される。しかし,これらの両捜査手法は,本来犯罪を抑止すべき立場にある国家が犯罪を誘発しているとの側面があり,その捜査活動により捜査の公正が害される危険を孕んでいるという本質的な性格は共通しているから,おとり捜査が許容される場合として上記判例が示した要件,すなわち,①機会があれば犯罪を行う意思があると疑われる者を対象としていること,②直接の被害者がいない薬物犯罪等の捜査において,通常の捜査方法のみでは当該犯罪の摘発が困難であること,との要件は,両捜査手法の間の上記差異のためにその要件判断の厳格さに多少の差異があり得るにせよ,なりすまし捜査の必要性及びその態様の相当性に関する判断のあり方を具体化するものとして,なお有用であると解される。
(中略)密行性が高く犯罪事実の把握すら困難な薬物犯罪等とは異なり,車上狙いは,被害者の申告等により捜査機関が犯罪の発生をほぼ確実に把握できる種類の犯罪であって,証拠の収集や犯人の検挙が困難な犯罪類型ではない。
 また,本件を具体的に見ても,捜査対象者である被告人の住居は把握されている上,被告人の行動時間や行動範囲は概ね限定されており,かつその行動方法は徒歩又は婦人用自転車であるから,C警察官らにおいて被告人の行動を追跡することは比較的容易であったといえる。そして,これに加え,車上狙いは屋外で行われ,また自動車のドアの開閉を伴う点で一般に他者から観察しやすい犯罪であり,実際にもC警察官らには被告人が駐車車両の中を窓の外から覗き込んでいる様子を観察したことが何回かあることも考慮すると,仮に被告人が車上狙いの実行に出た場合,行動確認捜査中のC警察官らにおいてその犯行を現認することは十分可能であったというべきである。また,以上のような捜査方法によらず,新たな被害申告を受けた後で捜査に着手するとしても,本件について,通常の捜査手法ではその捜査を遂げるのが特に困難であると認めるべき事情も見当たらない
(中略)以上によれば,本件捜査は,なりすまし捜査を行うべき必要性がほとんどない以上,その捜査の態様のいかんにかかわらず,任意捜査として許容される範囲を逸脱しており,国家が犯罪を誘発し,捜査の公正を害するものとして,違法であるといわざるを得ない。」


【判決要旨・証拠能力】
「本件ではなりすまし捜査を行うべき必要性がほとんどなく,適法手続からの逸脱の程度は大きいといえること, 前記のとおり,本件捜査により国家が犯罪の発生を一定程度促進する結果となってしまっていること, C警察官らは,地道な捜査を厭い,手っ取り早く被告人を検挙しようと考えて安易に本件の違法捜査に出たものであり,同警察官らには捜査方法の選択につき重大な過失があったといえること, 本件がそれほど重大な犯罪に関するものではないこと C警察官らには,被告人の検挙においてなりすまし捜査を行った事実を捜査書類上明らかにせず,また公判廷においても同事実を否認する内容の証言をするなど,本件捜査の適法性に関する司法審査を潜脱しようとする意図が見られること等に照らすと,その違法は重大であるといわざるを得ない。
 また,本件捜査の性質に照らすと,今後も本件と同様の違法捜査が繰り返し行われることは大いにあり得るところであるから,本件捜査により獲得された証拠を許容することは,将来における違法捜査の抑制の見地からして相当でないというべきである。」


【雑感】
・新しい刑事訴訟法上の論点の誕生でしょうか。おとり捜査の違法性については議論がありましたが,なりすまし捜査については,あまり聞いたことがありません。特に,この判決で注目されるのは,無罪判決が出たことではなく,検察が控訴を断念したことです。判決書でC警察官が偽証していると強く非難されている(15頁)ことから,検察としては上にもっていきたくなかったのかもしれません。
 なお,このような重大な行為について警察官が偽証している以上,裁判所は偽証罪で刑事告発すべきです。公務員には告発義務(刑訴法239条2項)があるため,裁判所が検察に告発し,襟を正すべきです。偽証罪は検察が敵性証人がウソをついた場合にのみ起訴する犯罪(検察が気に食わないもののみ起訴される)であり,明らかに適切な運用がなされているとは思えません。判決書で認定されている以上,鹿児島地裁として刑事告発すべきです。

・この判決は司法試験の刑事系の論点としては,絶好の題材といえるでしょう。特に,おとり捜査との比較の視点,違法性を論じる際の裁判所の事実認定がかなり詳しくされていることから,受験生はあてはめの仕方も含めしっかり勉強しておくとよいでしょう。

・この無罪判決という結論は,法律家以外では理解されていないようです。確かに,実際に物を盗んでいるので,無罪という結論について,理解を得るの難しいでしょう。
 しかし,今回は家の中でこそこそ隠れて犯罪が行われた事案ではなく,外で行われた車上荒らしの事案で,被疑者の住所まで警察は把握していた事案です。
 ここまでわかっていて普通の捜査で逮捕できないのは,鹿児島県警は「捜査能力が皆無」と言われても仕方がありません。普通の捜査で逮捕できないから,えさをわかりやすく仕掛けたなんてさすがに情けないの一言です。例えていうのなら,ネズミがすばしっこくて捕まえられないので,チーズを罠付きで設置し,そのチーズを食べに来たネズミが罠にはまったからようやく捕まえられたというところです。警察はもう少し頭を捜査能力を身につけてほしいものです。

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by lawinfo | 2017-04-14 23:48 | 刑事事件

【陳述書】最高裁平成29年3月31日決定

【陳述書の取り扱い】
・最高裁平成29年3月31日第一小法廷決定
(事件番号:最高裁判所平成28年(し)第639号・再審請求棄却決定に対する即時抗告の決定に対する特別抗告事件)
URL:http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=86660


【決定要旨】
「Aの証人尋問や請求人の本人尋問等を行わないまま,本件陳述書の信用性は相当に高いなどと評価し,本件陳述書等の新証拠を基にすると,Aの従前の供述や請求人の捜査官に対する自白は信用するに足りるものとはいえないと断定して,新証拠が請求人に対し無罪を言い渡すべき明らかな証拠に当たると判断した原審の手続には,新証拠の信用性,とりわけ本件陳述書の作成経緯・過程の吟味を怠った点において,審理不尽の違法があるといわざるを得ない。本件確定裁判において認定された犯罪事実に係る上記2(1)の証拠関係に鑑みれば,その違法が決定に影響を及ぼすことは明らかであり,原決定を取り消さなければ著しく正義に反するというべきである。」


【雑感】
・確かに,原審が原々審の判断を逆転させる以上,証人尋問くらいするよなぁとは思います。特に,メインの証拠が陳述書である以上,その必要性は一層高いといえます。
 逆にいえば,原々審がこのような重要な事実が出てきたにもかかわらず,尋問もせずに再審を否定しているのはもっとおかしいです。おそらく,事案軽微なので,適当にあしらったんでしょう。

・ただ,本件は陳述書だけではなく,陳述書に合致する一応の証拠(離婚調書)があり,最高裁自体が「再審請求は,理由がある」とまで明確に言い切っている(2頁)のに,わざわざ破棄差戻をする必要があったのかなとの疑問はあります。このために,差戻審でまたかなりの時間がかかるため,無罪判決まで相当な時間を費やすことになります。

・最高裁から,「いかにも唐突で不自然な感を免れない」「裏付けのないままではたやすく信用し難い」と突っ込まれているように,究極的には,この陳述書を書いた人間の責任が大きいといえるでしょう。


※上記の意見・情報などの正確性等を保証するものではなく,お使いになる方の判断と責任で情報の取捨選択をお願いします。

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by lawinfo | 2017-04-04 23:53 | 刑事事件

【最高裁】平成29年3月10日判決

【法律審としての事実認定】
・最高裁平成29年3月10日第二小法廷判決
(事件番号:最高裁判所平成27年(あ)第63号・窃盗被告事件)
URL:http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=86587


【主文】
「原判決及び第1審判決を破棄する。
 被告人は無罪。」


【判例要旨】
「A及びBの各証言は高い信用性を有するとまではいえないのであって,そのような証拠に依拠して,Aが本件記帳台上に本件封筒を置き忘れた時点で本件封筒の中に現金6万6600円が在中していたとの事実を認定し,これを動かし難い前提として,被告人以外には現金を抜き取る機会のあった者がいなかったことを理由に被告人を有罪と判断した第1審判決及びこれを是認した原判決の判断は,被告人が本件封筒を窃取したとの認定を妨げる方向に強く働く客観的事情を無視あるいは不当に軽視した点において,論理則,経験則等に照らして不合理なものといわざるを得ない。被告人が本件公訴事実記載の窃盗に及んだと断定するには,なお合理的な疑いが残るというべきである。」


【小貫芳信反対意見】
「事実認定の事後審査の在り方は,「第1審において,直接主義・口頭主義の原則が採られ,争点に関する証人を直接調べ,その際の証言態度等も踏まえて供述の信用性が判断され,それらを総合して事実認定が行われることが予定されていることに鑑みると,控訴審における事実認定の審査は,第1審判決が行った証拠の信用性評価や証拠の総合判断が論理則,経験則等に照らして不合理といえるかという観点から行うべきもの」であり,「控訴審が第1審判決に事実誤認があるというためには,第1審判決の事実認定が論理則,経験則等に照らして不合理であることを具体的に示すことが必要である」とされている(最高裁平成23年(あ)第757号同24年2月13日第一小法廷判決・刑集66巻4号482頁,最高裁平成24年(あ)第797号同26年3月20日第一小法廷判決・刑集68巻3号499頁参照)。この理は,事実の取調べに制約があり,かつ,事後審で法律審である上告審には一層強く妥当するものと思われる。この観点から,多数意見をみると,第1審判決及びこれを是認した原判決の事実認定に対し,前述したとおり,それが論理則,経験則等に照らして不合理であることを具体的に示したとは到底いえないと考える。」


【雑感】
・本件は最高裁における事実認定の在り方が問われている事件といってもいいと思います。最高裁の法律審としての性質を考えると,最高裁が自ら設定した高裁の事実認定の在り方に関する判例と適合するのか疑問もあります。この点で小貫反対意見は説得的な論述をしています。

・では,有罪とすべきであったかというとそんなことはありません。
あくまで,多数意見が行った詳細な検討は事実審で行われるべきことですが,多数意見もいっているとおり,高裁が有罪という結論ありきで事実認定をしているため,最高裁がこんな無理をするようになっているわけです。

・私はさんざん日本の刑事司法の癌は高裁だと言ってきていますが,高裁で証拠調べはほとんど行われず,事実上の1審制です。
 多数意見はこれを変えようとしているのかわかりませんが,この判決が出た後もおそらく高裁の審理姿勢は変わらないでしょう。そもそも,この事件も最高裁で主任裁判官(と担当調査官)が疑問視し,審議室事件にしたから破棄されたと考えられ,別の小法廷に入っていたら,同一小法廷であっても別の裁判官が主任裁判官だったらこの事件でこのような判断になっていたか疑問です。
 最高裁は刑事司法について,いろいろ下級審の意識を変えようという判断を数年前からしてきているので,高裁改革をまじめに取り組んでほしいものです。


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by lawinfo | 2017-03-13 23:41 | 刑事事件

【刑事事件】神戸地裁平成28年4月12日判決

【前頭側頭型認知症と再度の執行猶予】
・神戸地裁平成28年4月12日第2刑事部判決・長井秀典裁判長
(事件番号:神戸地方裁判所平成27年(わ)第970号・窃盗被告事件)
URL:http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail4?id=85931


【判示事項】
「被告人を診察したB医師は,被告人は前頭側頭型認知症を患い,その症状のひとつとして衝動を抑制しづらい状態にあり,本件犯行はその影響を受けていると証言している。同医師は,医学的検査の結果や被告人の行動傾向の分析など複数の根拠を示して説明しており,その意見は信頼できるものである。検察官は,診断の前提となる事実関係が適切に把握されておらず,標準的な診断基準に則った診断がなされていないなどと主張するが,同医師の証言内容を検討しても,事件記録や面談などの資料収集に関しても,専門的な知見に基づく診断に関しても,その意見の信頼性を失わせるような誤りがあるとすべき根拠は見当たらない。
 検察官は,被告人が周囲を確認してから商品を隠匿し,退店の際に周囲を何度も確認している事実を指摘し,その行動は病的なものではないと主張する。しかし,B医師の証言によれば,前頭側頭型認知症を患って衝動を抑制しづらい状態にあっても,通常は万引きが悪いことだとは理解しているというのであるから,被告人がそのような行動をしていることから直ちに同医師の診断が不合理であるとまではいえない。むしろ,上記のように手口が比較的単純でやや稚拙である点を,罰則があっても報酬に対する衝動を抑制しづらい状態にあったことの表れと見ることも可能と解される。
 以上によれば,被告人の認知症の症状が本件犯行に一定の影響を及ぼしていることは否定できず,被告人が本件犯行に及んだことに対する非難は,ある程度限定されるというべきである。
 そうすると,被告人の責任は,再度の執行猶予を付することが許されないほど重いものではない。」


【雑感】
・いい機会ですから,この「前頭側頭型認知症(ぜんとうそくとうがたにんちしょう)」という病名及び症状を覚えましょう。認知症というと,どうしてもアルツハイマー型が想起されますが,高齢者が繰り返し行う窃盗事件では,このタイプの認知症が疑われることが多いです。

・窃盗事件は微罪処分→起訴猶予→罰金刑→執行猶予→実刑と段階的に処分が上がっていくケースが多く,初期段階で早期に治療(症状の緩和)を受けさせ,再犯を防止できるようになるために,この病気への理解が一層深まることを祈念します。

・この件では,弁護人の十分な弁護活動があったため再度の執行猶予判決が出ていますが,なかなか裁判所は再度の執行猶予を認めません。お手本となるような弁護活動だと思われます。


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by lawinfo | 2016-06-07 23:33 | 刑事事件

【再審開始決定】札幌地裁平成28年3月3日決定

【おとり捜査再審開始決定】
・札幌地裁平成28年3月3日刑事第2部決定・佐伯恒治裁判長
(事件番号:札幌地方裁判所平成25年(た)第2号)
URL:http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail4?id=85828


【判示事項】
「本件おとり捜査は,その必要性が認められず,かえって,具体的な嫌疑もない者に対して犯意を誘発するような働きかけを行うことで,犯罪を抑止すべき国家が自ら新たな銃器犯罪を作出し,国民の生命,身体の安全を脅かしたものであるといい得るところ,更に本件では,次に示すような事情も認められる。
 すなわち,特筆すべきは,銃器対策課の捜査官らは,事件後,こぞって内容虚偽の捜査書類を作成した上,裁判でおとり捜査の違法性が争われるや,内部で口裏合わせをした上,CやDは捜査協力者ではなく,おとり捜査は行っていないなどと全く真実に反する証言をし,組織ぐるみで本件おとり捜査の存在を隠蔽している。こうした捜査官らの行為は,事案の真相を明らかにして,適正に刑罰法規を適用するという刑事裁判の目的を根底から覆し,請求人が公正な裁判を受ける権利を踏みにじるものである。
…結局,本件おとり捜査には,令状主義の精神を潜脱し,没却するのと同等ともいえるほど重大な違法があると認められるから,本件おとり捜査によって得られた証拠は,将来の違法捜査抑止の観点からも,司法の廉潔性保持の観点からも,証拠能力を認めることは相当ではない。殊に,銃器対策課が請求人を逮捕する前から「Cを消す。」などと本件おとり捜査の存在を組織ぐるみで隠蔽しようと画策していたことからすると,その違法性を認識しながら請求人を逮捕したものと認められ,そのような捜査によって得られた証拠を用いることは到底許されるべきことではない。本件おとり捜査が,請求人にけん銃を日本国内に持ち込ませ,これを現行犯逮捕するなどして検挙することを目的としたものであることからすると,少なくとも,現行犯逮捕によって得られた各証拠(本件けん銃,実包,弾頭及び空薬莢(確定審の甲6ないし9),それらの鑑定書(同じく甲11)並びに逮捕時の状況に関する捜査報告書等(同じく甲2ないし4))は証拠排除されるべきである。
 そうすると,請求人が真正なけん銃やこれに適合する実包を所持していたことは請求人自身認めているものの,この自白を補強すべき証拠がなく,結局,刑訴法319条2項により犯罪の証明がないことに帰するから,請求人に対し無罪の言渡しをすべきである。本件再審請求は,刑訴法435条6号所定の有罪の言渡しを受けた者に対して無罪を言い渡すべき明らかな証拠を新たに発見したときに該当する。
 よって,刑訴法448条1項により,本件について再審を開始することとする。」


【雑感】
・これはひどい…。警察の組織ぐるみの犯罪誘致,刑事裁判での組織的隠蔽。ノルマ達成という目的だけのために,違法行為を重ねる警察,警察を監督する能力の一切ない検察…。
…と,いいたいところですが,そんなに特殊なことではなく,割と行われていることです。

・このブログでずっといっていますが,捜査機関はいかなる時代・国を問わず暴走するものです。それを止められるのは裁判所だけです。刑事裁判官がこの事件の確定審で無罪判決を書いていれば,捜査機関に対するある程度の抑止力をもったはずです。そして,日本の刑事司法の癌は高裁です。高裁で地裁の無罪判決が逆転されるのを恐れて,地裁は無罪判決を書きたがりません。

・唯一良かったことを探すのであれば,今後エリートとして刑事畑を歩むこの事件の部長が警察と検察の実態をまざまざと知ったことです。今後裁判所として刑事政策を考えるうえで,この事件の教訓が生かされることを切に望みます。


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by lawinfo | 2016-05-06 23:07 | 刑事事件

【無罪判決】横浜地裁平成28年1月29日判決

【無罪判決】
・横浜地裁平成28年1月29日第1刑事部判決・足立勉裁判長
(横浜地方裁判所平成27年(わ)第849号・ 暴力行為等処罰に関する法律違反,傷害被告事件)
URL:http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail4?id=85810


【公訴事実】
「被告人は,平成27年5月25日午前零時40分頃,横浜市内のa荘A方において,同人(当時49歳)に対し,その顔面を殴るなどの暴行を加えた上,持っていた包丁(刃体の長さ約21.3センチメートル)の刃先をその喉元に突き付け,「殺すぞ」などと言い,もって凶器を示して脅迫し,さらに,同人を畳に仰向けに倒して馬乗りになり,その右腕を左手でつかんだ上,その左顔面直近の位置において,包丁の刃先を畳に数回突き刺すなどの暴行を加え,よって,同人に全治約1週間を要する口唇部挫傷,右上腕部挫傷の傷害を負わせたものである。」


【争点】
①被害者(とされる人物)証言の信用性
②正当防衛の成否


【求刑】
・懲役2年


【主文】
「被告人は無罪。」


【判示事項】
「被告人供述は,A証言に勝るとも劣らない具体性,迫真性を備えており,被告人とAが口論に至った経緯についても,2人の間で本件前日に交わされたラインのやり取りや,AがBに対して抱いていた感情に照らし,自然な内容といえる。
そして,前記のとおり,Aには,感情的にかなり不安定な面があり,被告人と口論するなどして興奮状態になると,時に自傷行為を含め突飛な行動に出ることがあるのであり,被告人が,興奮して外へ出ようと暴れるAを落ち着かせるために,Aを組み伏せた上,その顔を平手で叩くなどして制止しようとしたが,目を離した隙にAが窓から飛び降りていた,という被告人の述べる一連の事実経過は,Aの行動傾向を踏まえれば,十分あり得る出来事といえる。
この点,検察官は,以前に包丁で自傷行為に及んだことがあったというAがまたしても自傷行為に及ぼうとしていると認識しながら,その場を収拾するには突飛な行動に出るしかないと思って包丁を持ち出したのは不自然,不合理であると主張する。しかし,空手の有段者であるAが約30分もの間興奮して暴れていたという状況を前提とすると,これを収拾するためにはA以上の突飛な行動をするしかないと考えたこと自体は了解可能であり,不自然,不合理であるなどとはいえない。」

「思うに,本件で想定されるAの自傷行為は,Aが自身の胸部や腹部を包丁で刺すなどという生命に危険が及びかねない行為であって,自殺関与罪が刑法上規定されていることも踏まえると,違法と評価すべきものと解される。そうすると,被告人による本件行為は,Aが外出して自傷行為に及ばないようにAを制止する目的からなされたものであり,Aの生命身体という法益に対する不正の侵害が切迫した状況において,これを防衛するためになされた行為というべきである。また,女性ではあるが空手の有段者であり,被告人に激しく抵抗していたAを制止するには,ある程度の有形力行使は避けられなかったと思わること,本件行為によりAが負った傷害の程度も全治約1週間にとどまることに照らせば,本件行為は,防衛手段として必要かつ相当なものであったと認められる。
したがって,被告人の本件行為については,正当防衛が成立する。」


【評価】
・被害者・被告人のどちらかがウソをついているため,事実認定がすごく難しい事案ですね。
一方が元自衛官で,女性が空手の有段者というどちらも力がある人物の間で行われた事件で,判決書を読んでいるだけではどちらの主張が正しいともいえません(証言を間近で聞くと違うかもしれませんが)。

・判断者が変われば180度事実認定が異なりうる事案であり,裁判の怖さを痛感する事案です。これを司法研修所の二回試験素材にすると,とても修習生が悩む事案になりそうです。まあ,刑裁起案よりは,弁護起案向きでしょうか。


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by lawinfo | 2016-04-01 23:25 | 刑事事件

【無罪判決】岐阜地裁平成27年11月30日判決

【過失運転致死事件・無罪判決】
・岐阜地裁平成27年11月30日判決・大西直樹裁判長
(事件番号:岐阜地方裁判所平成26年(わ)第431号・過失運転致死,道路交通法違反)
URL:http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail4?id=85589


【無罪となった公訴事実】
「本件公訴事実中,過失運転致死の点(公訴事実第1)は,「被告人は,平成26年11月17日午後6時1分頃,普通乗用自動車を運転し,岐阜市島栄町内の交通整理の行われていない三差路交差点を,東から西方面へ向かい直進するに当たり,同所は道路標識によりその最高速度が40キロメートル毎時と指定された場所であったから,同最高速度を遵守するはもとより,前方左右を注視し,進路の安全を確認しながら進行すべき自動車運転上の注意義務があるのにこれを怠り,左方道路から来る車両の有無に気をとられ,前方左右を十分注視せず,進路の安全確認不十分のまま漫然時速約50キロメートルで進行した過失により,折から同交差点出口付近を右方から左方へ向かい小走りで歩行横断中のA(当時84歳)を至近距離に迫ってようやく認めたが,急制動の措置を講じる間もなく,同人に自車左前部を衝突させて路上に転倒させ,よって,同人に重症頭部外傷等の傷害を負わせ,同日午後8時42分頃,同市内の病院において,同人を上記重症頭部外傷により死亡させた」


【検察官の求刑】
・懲役3年6月の実刑


【主文】
「被告人を懲役1年に処する。
この裁判が確定した日から3年間その刑の執行を猶予する。
本件公訴事実中,過失運転致死の点については,被告人は無罪。」


【判示事項】
「被告人は,最高速度をいくらか上回る速度で走行してはいたものの,前方左右不注視の義務違反があったとの事実は認められない上,そもそも前方左右の注視を尽くしていても本件事故を回避し得たとするには合理的な疑問が残るから(なお,被告人の走行速度が,上記第3の5で検討した際の前提である時速を上回る,例えば,時速50キロメートルであったとしても,その結論は同様である。),本件事故が,被告人が自動車運転上の注意義務を怠ったことにより生じたものであるとは認められず,被告人に自動車運転上の過失があったということはできない。
よって,本件公訴事実中,過失運転致死の点については,犯罪の証明がないことに帰するから,刑事訴訟法336条により被告人に対して無罪の言渡しをすることとする。」


【雑感】
・この被告人は引き逃げしています。意外に思われるかもしれませんが,まじめな人ほど引き逃げをする傾向にあります。

・犯罪性向の高い人は人を引いてもそんなに動揺しないため,事故後普通に通報します。
この被告人のように前科・前歴までないタイプは,責任の重さに思わず逃げだしてしまうことがあると刑事裁判官から聞いたことがあります。この被告人は結果として自分が被害者を死に至らしめていたったことを後悔しているように判決書からは読めます。

・そうだからといって引き逃げが許されるというつもりは毛頭ありませんが,このような傾向が交通事故では見られます。


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by lawinfo | 2016-01-18 23:41 | 刑事事件

【無罪判決】大阪地裁平成27年11月30日判決

【保護責任者遺棄致死無罪判決】
・大阪地裁平成27年11月30日第2刑事部判決・小倉哲浩裁判長
(事件番号:大阪地方裁判所平成26年(わ)第5542号・保護責任者遺棄致死事件)
URL:http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail4?id=85535


【事案の概要】
・難病に罹患した当時3歳の女児を母親が十分な保護をあたえず,死なせてしまった。


【主文】
「被告人は無罪。」


【判示事項】
「よって,被告人に対する本件公訴事実については,犯罪の証明がないことになるから,刑事訴訟法336条により被告人に対し無罪の言渡しをする。
なお,被告人に対して重過失致死罪の成立を検討する余地はあるものの,公判前整理手続における同罪の取扱いに関する検察官の対応等の事情からすると,本件事案の性質・内容等を踏まえても,当公判廷において証拠調べ終了時に訴因に関する検察官の意向を確認した以上に,当裁判所が検察官に対して訴因変更を勧告し又は命令することが必要となるとはいえず,本訴因について無罪の言渡しをすることとした。」


【雑感】
・この事件は,裁判員裁判の無罪判決ではありますが,私が唯一興味があるのは,この判決の結論部分のなお書きです。

・このなお書き要りますか?

・これは本当は有罪にしたいけど裁判員の多数が無罪にしたいといったのか,はたまた,高裁で逆転判決が出されると自分で思っているので予防線を張って言い訳がましいことをあえて判決書に書いておいたのかわかりませんが,無罪判決を書くなら自信をもって無罪判決を書くべきでしょう。
・このなお書きが入ったことでこの判決全体がぼやけてしまって,真意にあらざる判決になってしまったことがかえって引き立つ結果となっています。
・まあおそらく,「無罪になったのは自分のせいじゃないぞ,訴因変更をしなかった検事のせいだぞ」といったところでしょうか。


※上記の意見・情報などの正確性等を保証するものではなく,お使いになる方の判断と責任で情報の取捨選択をお願いします。
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by lawinfo | 2015-12-17 23:58 | 刑事事件

【再審無罪】大阪地裁平成27年10月16日判決

【強制わいせつ,強姦再審無罪】
・大阪地裁平成27年10月16日第1刑事部判決・芦髙源裁判長
(事件番号:大阪地方裁判所平成26年(た)第22号・強制わいせつ,強姦(再審)被告事件)
URL:http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail4?id=85443


【公訴事実】
「被告人は,強いてわいせつな行為をしようと企て,平成20年7月上旬ころ,a市b区cd丁目e番fg棟h号室の被告人方において,同居している養女であるA(当時14年)に対し,その背後から両腕でその身体に抱き付き,両手で衣服の上から両乳房をつかんで揉み,もって強いてわいせつな行為をしたものである。」(平成20年9月30日付け起訴状記載の公訴事実)
「被告人は,a市b区cd丁目e番fg棟h号室の被告人方でAと同居していたものであるが,第1 平成16年11月21日ころ,前記被告人方において,A(当時11年)が13歳未満であることを知りながら,同女を強いて姦淫しようと企て,同女に対し,その肩等をつかんであお向けに押し倒し,無理やり衣服をはぎ取るなどの暴行を加えてその反抗を抑圧し,強いて同女を姦淫し,第2 平成20年4月14日ころ,前記被告人方において,前記犯行及びその後繰り返し行った虐待行為等によりA(当時14年)が被告人を極度に畏怖しているのに乗じ,同女を強いて姦淫しようと企て,同女に対し,前同様の暴行を加えてその反抗を抑圧し,強いて同女を姦淫したものである。」(平成20年11月12日付け起訴状記載の各公訴事実)


【主文】
「被告人は無罪。」


【雑感】
・これが国家が作り出した最大級の犯罪です。

・検察は補充捜査により新たに発見したといっているようですが,「「処女膜は破れていない」という診断が記載されたカルテ」は,検察が証拠隠しをしていただけで,このような重要証拠を新たに発見することはありえません。
 なぜなら,強姦事件の初動捜査はまずは被害者を産婦人科にすぐに連れて行き,精液が膣内に残っていないかなど明確な証拠の確保をすることが大原則で,これらのことをしないなんてことはありえないからです。

・ただ,私は検察が悪いとはいいません。検察の証拠隠しなんて日常茶飯事で特に珍しいことではなく,このような重要な証拠が証拠提出されないことに疑問を抱き,無罪判決を書かなかった刑事裁判官が悪いんです。
・まさに裁判官の犯罪です。当時の判断としては仕方がなかったなどと言い訳するでしょうが,気づけるポイントはいくらでもあったはずです。裁判官による人道に対する犯罪行為です。


・それにしても検事の作文能力はすごいですね。事実がまったく存在しないのに,場所・方法など事細かに起訴状に記載していますが,これらはすべて検事の妄想です。この起訴状を起案した検事は検事を辞めて,小説家にでもなった方がいいんじゃないでしょうかね。その方が才能を発揮できそうです。
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by lawinfo | 2015-11-09 23:23 | 刑事事件

【刑事事件】最高裁平成27年10月22日決定

【勾留却下の具体例】
・最高裁平成27年10月22日第二小法廷決定
(事件番号:平成27年(し)第597号・勾留請求却下の裁判に対する準抗告の決定に対する特別抗告事件)
URL:http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=85401


【被疑事実】
「被疑者は,大阪家庭裁判所審判官によりAの成年後見人に選任され,同人名義の預金通帳等を保管し,同人の財産を管理する業務に従事していたものであるが,大阪府東大阪市内の郵便局に開設された同人名義の通常郵便貯金口座の貯金を同人のため預かり保管中,平成20年11月21日,同府八尾市内の郵便局において,同口座から現金300万円を払い戻し,同日,同府東大阪市内において,これをBに対し,ほしいままに貸付横領した」


【決定要旨】
「本件は,被害額300万円の業務上横領という相応の犯情の重さを有する事案ではあるものの,平成20年11月に起きた事件であり,平成23年6月に大阪家庭裁判所から大阪府警察本部に告発がされ,長期間にわたり身柄拘束のないまま捜査が続けられていること,本件前の相当額の余罪部分につき公訴時効の完成が迫っていたにもかかわらず,被疑者は警察からの任意の出頭要請に応じるなどしていたこと,被疑者の身上関係等からすると,本件が罪証隠滅・逃亡の現実的可能性の程度が高い事案であるとは認められない。原決定は,捜査の遅延により本件の公訴時効の完成が迫ったことなどを理由に,勾留の必要性がないとまではいえない旨説示した上,原々審の裁判を取り消したが,この説示を踏まえても,勾留の必要性を認めなかった原々審の判断が不合理であるとしてこれを覆すに足りる理由があるとはいえず,原決定の結論を是認することはできない。」


【雑感】
・これまでの勾留・保釈に関する最高裁決定で一般論は十分に説示されていました。
しかし,具体的な適応の場面でいまだに勾留を認める下級審の判断が多く,最高裁の決定の趣旨に反する判断も多いところです。
・この300万円の業務上横領事件という一点をもって勾留の必要性を認めた原審決定に対し,最高裁はそうはいうものの,それまで身柄拘束もせずに捜査を長々続けていた点を詳細に分析し,高裁の形式的判断を覆した点で実務に与える影響は非常に大きいと思います。
・勾留却下を求める事件では,この最高裁決定を添付資料としてつけておけば,下級審の裁判官もビビって自信をもって勾留を認める判断はできにくくなると思います。


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by lawinfo | 2015-10-26 23:18 | 刑事事件