とある弁護士のひとりごと

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【一部無罪判決】横浜地裁平成26年7月3日判決

【3つの公訴事実と心神喪失の認定】
・横浜地裁平成26年7月3日第1刑事部判決・樋上慎二裁判官
(横浜地方裁判所平成25年(わ)第731号・傷害,強盗被告事件)
URL:http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail4?id=84400


【公訴事実】
「被告人は,
第1 平成24年3月20日午前2時10分頃から同日午前2時20分頃までの間,神奈川県綾瀬市ab丁目e番駐車場において,A(当時51歳)に対し,同人の顔面を両手のげんこつで多数回殴り,さらに,同人の身体をつかんでその場に引き倒した上,同人の顔面,胸部,腹部等を多数回蹴るなどの暴行を加え,よって,同人に全治約4週間を要する眼窩骨折,肋骨骨折等の傷害を負わせ
第2 前記暴行により前記Aが畏怖状態となっているのに乗じ,同人から金品を強取しようと企て,その頃,同所において,同人に対し,「財布と携帯を出せ」と怒鳴って脅迫し,その反抗を抑圧して,同人所有の現金約7万円及びキャッシュカード等8点在中の財布1個(時価合計約500円相当)を強取し
第3 被告人は,平成24年3月20日午後3時15分頃,神奈川県綾瀬市ab丁目c番d号メゾンC前路上において,しゃがみ込んでいたB(当時43歳)に対し,同人の左肩を手で突き飛ばし,同人の顔面を蹴るなどの暴行を加え,よって,同人に加療約1週間を要する顔面打撲等の傷害を負わせた」


【争点】
・傷害,強盗事件と,その約13時間後の別の被害者に対する傷害事件について,躁鬱病の躁状態に複雑酩酊の脱抑制が付け加わった精神症状により心神耗弱または心神喪失の状態にあったか。


【求刑】
・懲役4年


【主文】
「被告人を懲役2年6月に処する。
 未決勾留日数中260日をその刑に算入する。
 本件公訴事実中,被告人が平成24年3月20日神奈川県綾瀬市ab丁目c番d号前路上においてBの身体を傷害したとの点については,被告人は無罪。」


【判示事項】
「E医師による(あ)の指摘は,D医師と同じビンダーの論文に依拠しつつ,ビンダーの論述内容を引用して反論するというもので,説得的であり,また,(い)の指摘は,文献上の議論を示すもので,同様に説得的である(なお,検察官は,(い)の鑑定例を1つの症例判断に過ぎない旨主張するが,(い)の鑑定例が文献上の根拠として,専門的な経験則を示すものである点に疑念の余地はない。)。(う)の指摘は,E医師の精神医学一般の専門的知見に基づくものであり,(あ),(い)の指摘に沿った内容でもあって,十分に尊重することができる(なお,E医師は,検察官の主張するとおり,アルコール関連の精神障害に特化した専門医ではないし,被告人と面接を行ってはいない。しかしながら,E医師が,臨床精神医学の専門家として,各種の精神障害につき十分な知識を有することは,その供述する内容からして明らかである上,E医師は,被告人と面接を行ったD医師及び被告人を診察したF医師の各見解について,その是非を当裁判所が判断するに際し,専門的な経験則等を当裁判所に提供して当裁判所の有する知識を補充するという立場にあったのであるから,E医師が被告人と面接を行う必要性は,認められない。)。
 以上によれば,D医師のいう(i)ないし(iii)の根拠は,いずれも採用できず,同医師の見解は,被告人が躁鬱病に罹患している可能性を否定する点,及び仮に躁鬱病の症状があったとしても,複雑酩酊の状態に直接に影響を与えたとは考えられない旨述べる点で,不合理である。」


【雑感】
・一部について心神喪失による責任無能力を認めた判決。
・特に,検察官の主張に沿う医師の判断を他の医師の異なる判断と対比して詳細に検討したうえで,医師の判断の信用性を排斥している点が特徴的な判決です。
・3つの公訴事実について,安易に一括して責任能力ありと判断することなく,状況ごとに冷静に違いを分析したうえで判断しており,それなりに説得力のある判決だと思います。
・ここまで精神病の特徴的な症状が出てこれば無罪は当然だと考える人もいるでしょう。しかし,実際の刑事裁判ではこの程度のことはよくある話で,同程度のことがあっても無罪判決を書きたくない刑事裁判官は心神喪失を認める裁判官はそれほど多くはないと思います(そういう裁判官は判決書に精神病に関する事実認定を記載しない)。特に,前の二つの公訴事実が心神耗弱なら,全部まとめて心神耗弱というテキトーな判断は,量刑がそれほど異ならないことから十分あり得ることだと思います。その意味では事案をよく見た素直な判決と評価できると思います。


※上記の意見・情報などの正確性等を保証するものではなく,お使いになる方の判断と責任で情報の取捨選択をお願いします。
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by lawinfo | 2014-08-19 23:47 | 刑事事件