とある弁護士のひとりごと

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【承継的共同正犯】福岡高裁平成29年5月31日判決

【承継的共同正犯】
・福岡高裁平成29年5月31日第3刑事部判決・鈴木浩美裁判長
(事件番号:福岡高等裁判所平成28年(う)第451号・詐欺未遂被告事件)
URL:http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail4?id=86829


【時代背景・問題点】
・振込詐欺が社会問題化し,次々と事件が起こる中,「受け子」にもいろんな形態が現れました。組織の末端として事情を知りながら受け子をしている場合は問題なく,詐欺罪の共謀共同正犯が成立します。しかし,詐欺組織とはまったく関係のない人にバイト感覚で詳しく事情も知らせないまま,受け子をやらせた場合,その受け子の責任が問題となります。
 また,振込詐欺を鮮やかに看破した被害者が,警察に協力して騙されたふりをする場合も増えてきました。承継的共同正犯以外にも不能犯など問題となりえますが,承継的共同正犯に関する初めての最高裁決定後に,高裁レベルでこの問題の判決がたまってきたので,さらに進んだ最高裁判決が下される土壌が整ってきたといえます。


【原審判決】
・事前共謀の成立を認めず,被告人が共謀・加担したのは本件欺罔行為より後の時点であるから,承継的共同正犯の成否が問題となるとした上で,本件荷物は被害者が「騙されたふり作戦」として発送したものであるから,その受領は詐欺の実行行為には該当せず,被告人が詐欺の結果発生の危険性に寄与したとはいえないなどと判示して,被告人を無罪とした。
 これに対し,検察が控訴。


【主文】
「原判決を破棄する。
 被告人を懲役3年に処する。
 この裁判が確定した日から5年間,その刑の執行を猶予する。
 原審における訴訟費用は,被告人の負担とする。」


【判示事項】
「本件では,被告人と本件共犯者との共謀が最終の欺罔行為に先立って成立していたことを認めるだけの証拠はないから,被告人は,詐欺罪における構成要件該当事実のうち財物交付の部分のみに関与したという前提で犯罪の成否を検討せざるを得ない。
 したがって,問題は,①財物交付の部分のみに関与した被告人につき,いわゆる承継的共同正犯として詐欺罪の成立を認めうるか,②認めうるとして,「騙されたふり作戦」が実行されたことが同罪の成否に影響するか,の2点ということになる。
3 先ず,①の点についてみると,このような時期・方法による加担であっても,先行する欺罔行為と相俟って,財産的損害の発生に寄与しうることは明らかである。
 また,詐欺罪における本質的な保護法益は個人の財産であって,欺罔行為はこれを直接侵害するものではなく,錯誤に陥った者から財物の交付を受ける点に,同罪の法益侵害性があるというべきである。そうすると,欺罔行為の終了後,財物交付の部分のみに関与した者についても,本質的法益の侵害について因果性を有する以上,詐欺罪の共犯と認めてよいし,その役割の重要度等に照らせば正犯性も肯定できる。
 次に②の点をみる。原判決は,被害者が詐欺を見破って「騙されたふり作戦」に協力した結果,本件欺罔行為と被告人による本件荷物の受領との間には因果関係が認められず,被告人が詐欺罪の結果発生の危険性に寄与したとはいえなくなるから,同罪は成立しないという。そして,その危険性を判断するに際しては,「犯人側の状況と共に,それに対応する被害者側の状況をも観察し得る一般人」を想定した上,そのような一般人の認識内容を基礎とするという基準を設けるのである。
 しかし,この危険性に関する原判決の判断は是認することができない。本件では,被告人が加担した段階において,法益侵害に至る現実的危険性があったといえるか,換言すれば,未遂犯として処罰すべき法益侵害の危険性があったか否かが問題とされるところ,その判断に際しては,当該行為時点でその場に置かれた一般人が認識し得た事情と,行為者が特に認識していた事情とを基礎とすべきである。この点における危険性の判定は規範的観点から行われるものであるから,一般人が,その認識し得た事情に基づけば結果発生の不安感を抱くであろう場合には,法益侵害の危険性があるとして未遂犯の当罰性を肯定してよく,敢えて被害者固有の事情まで観察し得るとの条件を付加する必然性は認められない
 そうすると,本件で「騙されたふり作戦」が行われていることは一般人において認識し得ず,被告人ないし本件共犯者も認識していなかったから,これを法益侵害の危険性の判断に際しての基礎とすることは許されない。被告人が本件荷物を受領した行為を外形的に観察すれば,詐欺の既遂に至る現実的危険性があったということができる。そして,被告人に詐欺の故意,本件共犯者との共謀及び正犯性が認められることはいずれも前記のとおりであり,被告人については詐欺未遂罪の共同正犯が成立する。これを認めなかった原判決には判決に影響を及ぼすことの明らかな事実誤認があり,破棄を免れない。」


【同種裁判例】
・名古屋高裁平成28年9月21日判決(無罪),原審名古屋地裁平成28年3月23日判決(無罪)
参照:http://www.westlawjapan.com/pdf/column_law/20170215.pdf


【雑感】
・傷害罪で承継的共同正犯を否定した最高裁判決以降,他の事例でを興味深く見てきましたが,この福岡高裁判決と上記名古屋高裁判決が出たことで,俄然と盛り上がる論点となることでしょう。司法試験的には,事前共謀がなく,構成要件の途中から関与した受け子に承継的共同正犯が成立するか,最高裁は傷害罪では承継的共同正犯を否定したが,詐欺罪ではどうなのかという問題点さえ気づければ十分でしょう。

・個人的には,いくら金を自分のものにしないと意味がないから受け子が不可欠の役割を果たしているとはいえ,欺罔行為等に一切関与せず,事情も知らないで受取行為のみした者に全部責任を負わせることには違和感があります。
 この点は結局のところ,欺罔行為後に初めて関与した者が①組織の一部として関与したのか,②その報酬配分が得た利益との関連から相当なものだったのか,③受け子と主犯者との関連性,④受け子がどの程度事情を知っていたのかというところと関わってくる問題だと思います。
・その意味で事実認定次第で大きく結論が異なってくることになり,一般的に受け子に承継的共同正犯が成立するかという問題はあまり意味がないかもしれません。

・今後さらに事例が増えそうなのが,上記名古屋高裁の事例のように,被害者が「現金偽装物」を送付したような場合です。
この場合,名古屋地裁と名古屋高裁は理論的構成は異なりますが,結論として無罪にしています。ここら辺を整理した最高裁判決が待たれるところです。

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by lawinfo | 2017-06-26 23:04 | 刑事事件

【免訴判決】福岡地裁平成29年6月2日判決

【免訴判決】
・福岡地裁平成29年6月2日第3刑事部判決・足立勉裁判長
(福岡地方裁判所平成27年(わ)第1440号・殺人被告事件)
URL:http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail4?id=86843


【訴因変更後の公訴事実】
「被告人は,平成11年2月9日から同年6 月5 日までにかけての頃の夜,福岡県田川市大字a字bc番d(現福岡県田川市ae番f地先) のA堰の南側のB川右岸において,殺意をもって,泳ぐことができないC(当時24 ,25歳)をあえて前記B川内に転落させ,よって,その頃,同所において,同人を溺死させて殺害した」


【求刑】
・懲役13年


【主文】
「被告人を免訴する。」


【判決要旨】
「エ 被告人の殺意の有無について
 以上を踏まえて, 被告人の殺意の有無について検討すると, まず,被告人は,①,②及び④の事情を認識していたが,前記3 ⑶ イで検討したように,②の事情については,Cの服の種類が特定できず,④の事情についても,本件当時のCの精神的・肉体的衰弱の程度を裏付ける確たる証拠はないことから, これらの事情を認識していたことで,Cが溺れる危険性を被告人がどの程度認識していたかを推知することは容易ではない。
 また,被告人がCに川に入るよう命じるに至った動機,経緯は明らかでない面があるが,Cを反省させるため川に入るよう命じたという被告人の供述は,従前の被告人のCに対する接し方に照らして特段不自然なことではなく,Eの証言ともこの点では整合している。そうすると,被告人は,Cを反省させる目的で川に入るよう命じたと認めるのが相当であるが,そのような目的であるとすれば,Cが川で死亡することを被告人が予測又は期待していたとは考えにくい。
 さらに,被告人は,C が水没した直後,どこまで真剣に救助を試みたか疑問は残るものの,自ら川に入ってC を探そうとしており,これは,被告人がCの死の結果を予測又は期待していなかったことを示す事情といえる。この点,検察官は,⑤ のとおりEやHに助けるよう指示していない点や被告人が直ちに119番通報をしていない点を指摘するが,被告人はCの水没直後に川に入っており,EやHにCを助けるよう指示を出す余裕がなかったとも考えられるし,被告人が,結果として自身の命令によってCが死亡したと考えて怖くなり,119番通報をせず立ち去ってしまったとしても不自然ではなく,検察官の主張は説得力に欠ける。
 以上に加えて,前記3 ⑶ ウで検討したように,本件当時,Cが泳げなかったことを被告人が認識していたとは認められないことも踏まえると,被告人が,CをB川に飛び込ませた行為について,その行為当時,Cが溺れ死ぬ危険性が高い行為であると認識していたとすることにはなお合理的な疑いが残るから,被告人に殺意があったと認めることはできない。」

「以上検討したように,被告人の所為は,傷害致死罪(平成16年法律第156号による改正前の刑法205条)に該当するが,その公訴時効の起算点は,犯罪行為が終わった平成11年5月の大型連休の頃であり,検察官が平成27年10月30日に公訴提起した時点においては,既に7年(平成16年法律第156号附則3条2項により同法による改正前の刑訴法250条3号による。なお,平成22年法律第26号附則3条1項)が経過して公訴時効が完成していたことが明らかであるから,刑訴法337条4号により被告人に対し免訴の言渡しをする。」


【雑感】
・あまり目にしない免訴判決。検察としては,殺人罪で起訴しないと公訴時効にかかるので,無理して殺人罪で起訴したというところでしょう。逆にいえば,平成11年の事件を起訴した平成27年10月までどのような捜査をしていたのか,倉庫にでも放置していたのか気になります。

・このような無罪判決(殺人罪については無罪,傷害致死罪については免訴)に特徴的なのは,多くの場合,公訴事実の「訴因変更」をしています。この事例でもそうです。訴因変更をするくらいグダグダなのは,やはり公訴時効回避の目的のために殺人罪で起訴するということ自体が無理筋だったのかもしれません。

・しかし,日本の刑事裁判官はそんな無理筋の事件でも結論が大きく変わる場合は,力技で有罪判決を無理に書くことが多いです。
 特に,この事案は殺人罪と何もなし(免訴)ですから,天と地くらいの差があり,同じ事案でも殺人罪を認める裁判官がいてもまったく不思議ではありません。裁判なんてそんな程度のものです。


※上記の意見・情報などの正確性等を保証するものではなく,お使いになる方の判断と責任で情報の取捨選択をお願いします。

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by lawinfo | 2017-06-22 23:23 | 刑事事件