とある弁護士のひとりごと

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【過払い論点】過払い訴訟における任意和解(債務承認弁済契約)の争い方①

【過払い訴訟における任意和解の争い方】
・引き直し計算をすると債務がなくなり過払金が発生している場合,貸金業者は借主と約定残高を一部カットまたは将来利息ゼロで任意和解(債務承認弁済契約)することがあります。
貸金業者の狙いは和解をすることにより,何も知らない借主に有利な条件を提示することにより,今後過払金の返還請求をさせないようにするためにあると考えられます。


【清算条項なしの任意和解】
・和解書に「本和解書に定めるほか,何らの債権債務がないことを相互に確認する」との文言(以下「清算条項」といいます)がなければ,当事者はこの和解によりすべてを清算する意思はなかったと考えることができるため,清算条項なしの任意和解によって過払金返還請求を妨げられることはあまりないと考えられます。


【清算条項ありの任意和解】
・他方,貸金業者の狙いが借主からの過払金の返還請求を妨げることにある以上,貸金業者は通常清算条項のある和解書にサインするように迫ってくるはずです。
清算条項は和解する際に通常入れられる文言で,これによって今後お互いに請求したり,請求されたりせずすべてを終わらせようという意味で使われるため,通常清算条項があれば過払金返還請求も妨げられることが多いと考えられます。
しかし,これでは法律の素人であり貸金業者から利息カット等という甘言にのせられてしまった借主が,過払金返還請求ができなくなるという重大な不利益が生じてしまいます。

・そこで,法律家としてはなんとか法律構成をしてこれを救済する道がないか考えるわけですが,まずは錯誤無効(民法95条)の主張が考えられます。


【主張の骨子】
・まず,判例上,和解契約の前提事項ないし基礎となる事項について争わなかった点に要素の錯誤がある場合は錯誤の主張ができます(大判大正6年9月18日民録23輯1342頁)。

・通常,貸金業者が任意和解をする場合は,借主に取引履歴のすべてを開示することはなく,引き直し計算の結果過払金が生じているなどということを説明することはまずありません。
借主としては債務が存在せず,過払金が発生していることを知っていれば約定残高での和解または清算条項付きの債権債務なしの和解(ゼロ和解)をするわけがありませんので,和解契約の前提事項に要素の錯誤があるといえます。
そして,引き直し計算をすれば過払いになっているにもかかわらず,約定残高の利息カットで和解した場合は「本来債務が存在しないのに債務がある和解」をしているため,実際の債務額(債務なし)と和解金額の乖離が一層大きければ大きいほどこの事実を知っていれば和解するはずはなかったといいやすくなるため,錯誤無効が認められやすい方向に働くことになると思います。

・次に,錯誤無効の主張を消費者側がすると,貸金業者から過払金が発生していれば約定残高で和解しなかったというのは,動機の錯誤であり相手方に表示していない以上認められない(※)と反論されます。しかし,動機の表示は黙示的でも足りるとされており(※),本事案でも黙示的に表示されていたと認定する裁判例もあります。


【※動機の錯誤の最高裁判例】
・最高裁昭和45年5月29日第二小法廷判決・集民第99号273頁
(事件番号:最高裁判所昭和44年(オ)第829号)
URL:http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=70380&hanreiKbn=02
「一般に、錯誤が意思表示の要素に関するものであるというためには、その錯誤が動機の錯誤である場合には動機が明示されて意思表示の内容をなしていること及びその動機の錯誤がなかつたならば通常当該意思表示をしなかつたであろうと認められる程度の重要性が認められることを要するものと解すべきであり」
・最高裁平成元年9月14日第一小法廷判決・集民第157号555頁
(事件番号:最高裁判所昭和63年(オ)第385号)
URL:http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=62387&hanreiKbn=02
「右動機が黙示的に表示されているときであっても、これが法律行為の内容となることを妨げるものではない。」

・最後に,重過失のある表意者は自ら無効を主張することはできませんが(民法95条ただし書),圧倒的な情報力及び交渉力の差のある貸金業者と借主の間で,借主に重過失があったと認定される場合はほとんどないと考えられます。


【私見】
・このような事案で錯誤無効を認めた裁判例も少ないながら存在します。
確かに,弁護士や司法書士が関与して任意和解した場合や裁判所が関与した特定調停をした場合などに比べれば,錯誤無効も認めやすい事案とはいえます。
しかし,裁判所はいったん当事者間で生じた契約の効力を否定する判決をなかなか書きたがりません。かなりの気合いの入れた書面と本人尋問くらいしないとなかなか裁判所が認めてくれないのではないでしょうか。
この争点についてもっと有利に運べるように,もう一つくらい法律構成があった方がいいように思います。
そこで,いずれ錯誤無効以外の法律構成についても考えてみたいと思います。


※上記の意見・判決などの正確性等を保証するものではなく,お使いになる方の判断で情報の取捨選択をお願いします。
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# by lawinfo | 2012-07-25 22:38 | 過払い訴訟論点