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【貸付停止(中止)措置と消滅時効】
・アコム・プロミス(現:SMBC)・シンキ・しんわなどが,本主張を行っています。 ・消滅時効について判示した最高裁平成21年判決(※)が「過払金充当合意を含む基本契約に基づく継続的な金銭消費貸借取引においては,同取引により発生した過払金返還請求権の消滅時効は,過払金返還請求権の行使について上記内容と異なる合意が存在するなど特段の事情がない限り,同取引が終了した時点から進行するものと解するのが相当である。」と判示したため,貸金業者は貸付停止措置をとったことが最高裁平成21年判決にいう「特段の事情」に該当すると主張するものです。 ・この主張が認められると消滅時効の起算点が最終取引日ではなく,貸付停止措置をとったときから時効が進行するため,過払請求をしたときから10年分しか過払請求ができないことになり,取引の長い依頼者の案件だと大きな差がでることになります。 【※最高裁平成21年判決】 ・最高裁平成21年1月22日第一小法廷判決・民集第63巻1号247頁 (事件番号:最高裁判所平成20年(受)第468号) URL:http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=37212&hanreiKbn=02 【本争点をめぐる高裁レベルの裁判例】 ・本争点について判断を示した高裁レベルの裁判例を紹介します。 地裁判決はたくさんありますが,あまり価値があるとは思えないので省略します。 (消費者側敗訴判決) ・大阪高裁平成23年7月5日第8民事部判決【アコム】 (事件番号:大阪高等裁判所平成23年(ネ)第569号,第1026号) ・東京高裁平成23年9月15日第2民事部判決【プロミス】 (事件番号:東京高等裁判所平成23年(ネ)第317号) …なお,この判決は平成23年9月16日付で更正決定がなされており,控訴人と被控訴人の取り違えが多数あるという大変お粗末な判決です。 ・福岡高裁平成24年6月21日第5民事部判決【しんわ】 (事件番号:福岡高等裁判所平成24年(ネ)第207号) (消費者側敗訴判決の主な理由) ・当初は借入れと返済を繰り返していたがその後長期間返済のみしていること,返済をした際受領したATMのご利用明細書のご利用可能額欄には「0千円」と記載されていたことから借主も貸付停止措置がとられたことを認識しており,最高裁平成21年判決にいう特段の事情がある。 ・基本契約書に「限度額にかかわらず、貸主の都合により限度額の減額もしくは「貸出を中止されることがあることを承認します。」等の文言があることから,借主は,取引継続中であっても新たな与信・貸出が中止されることをあらかじめ承認していたこと (消費者側勝訴判決) ・東京高裁平成23年6月20日第22民事部判決(加藤新太郎裁判長)【プロミス】 (事件番号:東京高等裁判所平成23年(ネ)第2166号) ・重要な事実認定として「控訴人は貸付対象として65歳もしくは69歳までという年齢条件を掲げているとするが,昭和2年6月22日生まれの被控訴人は平成6年6月2日当時67歳の直前であるにもかかわらず,新たな借入がされていること,関係証拠によれば,控訴人は70歳以上の者に対しても新たな貸付けをしていることが認められる(甲2ないし7)。 ・以上によれば,平成6年6月2日の借入を最後に新たな借入を行わないとの合意がされたことを認めるに足りる証拠はなく,また被控訴人の年齢から今後の貸付がされないことが明らかであるとは言えず,控訴人と被控訴人との取引について上記特段の事情があると認めることは困難というほかない。」と判示し,老齢による再貸付の期待なしというもっともらしい理由の貸金業者の主張を著名な裁判官が否定しています。 ・仙台高裁平成24年3月14日第3民事部判決【アコム】 (事件番号:仙台高等裁判所平成23年(ネ)第456号) 事実認定の問題として,本件取引を被控訴人の審査部に移管した上で,貸倒損失として計上する旨の処理をしたことをもって,平成21年最高裁判決の特段の事情はないとしている。審査部送りという事態があってもそれは貸金業者の内部的処理にすぎないことを重視したものと思われます。 ・福岡高裁平成24年4月20日第4民事部判決【しんわ】 (事件番号:福岡高等裁判所平成24年(ネ)第99号) 「継続的金銭消費貸借取引において発生した過払金返還請求権の消滅時効については,特段の事情がない限り,当該取引の終了時点から進行するとされ,本件においては,特段の事情が認められるためには,本件措置が採られたというだけでなく,それを被控訴人が認識したことにより法律上の障害がなくなって消滅時効が進行すると解される(東京高裁平成23年(ネ)第317号事件の判決)」が,本件では,被控訴人が本件措置を認識したことを認めるに足りる証拠はない。かえって,被控訴人は,本件措置が採られた平成11年8月当時も,滞りなく返済を続けており,本件措置が採られた旨の通知を受けたことやそれ以降に新たな借入申込みをしていないから借入れを拒絶したこともない旨述べていることからすると,被控訴人は本件措置のことを知らずに本件取引を継続させているものと認められるから,上記特段の事情は認められない。」 ・東京高裁平成24年5月31日第7民事部判決【アコム】 (事件番号:東京高等裁判所平成23年(ネ)第7173号) 「被控訴人(=アコム)は,新基本契約には,返済期日,返済金額が明記され,信用情報照会に同意する旨も定めされているのであるから,控訴人(=借主)は,延滞や他社からの借入れの増大が自らの信用状態の悪化に直結することを十分認識していたと主張するが,控訴人の上記期待が合理的根拠を欠くことの立証は,そのような抽象的な認識可能性を主張・立証するのでは足りないというべきである。」 ・本来立証の程度については裁判所の裁量(自由心証)というべきものですが,この市村部長は他の論点でも貸金業者の立証の程度についてはかなり厳しめな態度をとっておられます。立証の問題としては本判決を引用し,貸付停止措置についての借主側の認識としては抽象的な認識可能性では足りず,明確な認識が必要としておけばよいでしょう。 ・福岡高裁平成24年5月31日第3民事部判決【しんわ】 (事件番号:福岡高等裁判所平成24年(ネ)第70号) 事実認定の問題として,「継続的金銭消費貸借取引においては,借主の信用状態が回復すれば与信が再開されることも考えられるのであり,与信額が0とされても,期限の利益を喪失させて残金の一括請求や基本契約の解除をしない場合は,従前の約定に従った返済も期待できるのであり,今後,当該借主に対して新たな貸付けを一切行わないことが決定されたとまで認めることはできない。」 また,「被控訴人(=しんわ)は,控訴人(=借主)がATMにより返済をした際に交付した利用明細書に「ご利用可能額 0千円」と記載されている旨主張するが,同利用明細書のうちには,「与信枠に対するご要望はお気軽に窓口へ」と記載されているものがある(乙20,21)ことからも,この利用明細書の交付により新たな貸付けをしない旨告知されたと認めることはできない。」と判示している。 ・貸金業者からATMの利用明細書に限度額が0と記載されているから借主は貸付停止措置を認識していたとする主張に対する明確な反論といえます。しんわのATM利用明細書には上記の文言が記載されているものもあり,これによれば相談すれば与信枠の回復ということもありうる文言となっていることから,利用明細書をもって貸付停止措置の認識とはいえないという判断になっています。すごく説得的な理由といえます。 ・福岡高裁平成24年7月18日第2民事部判決【しんわ】 (事件番号:福岡高等裁判所平成24年(ネ)第396号) ※私が書面作成に関与した判決 ・重要な判示部分「本件基本契約の上記条項は,一旦限度額の減額や貸出しの中止があった場合であっても,控訴人の都合によって,再度,限度額の増額や貸出の再開がされることも想定されていると解される(控訴人も一般論としては争わない。)」 「貸付停止措置がされた平成12年2月ころ,客観的には,当面,被控訴人に対する新たな貸付けの見込みは乏しく,被控訴人もそのことを認識していたといえるが,過払金充当合意を含む本件基本契約上,被控訴人に対する新たな貸付けの余地が否定されるものではなく,また,被控訴人が,控訴人に対する返済を継続していれば,借入残高が減額後の借入限度額を下回ったり,再度与信枠が与えられるなどして,新たな借入れが可能になるとの認識を有していたことも否定できない。」 ・この判決の重要な点は①しんわは一般論として貸付停止措置後の再貸付の可能性を認めていること,なにより②いったん借主が貸付停止措置についての認識を認定されてしまっても,まじめに支払いを続けていれば再貸付の期待を持っていたとしてもおかしくないため,最高裁平成21年判決の特段の事情が認められなかった点です。 【評価】 ・以上のとおり高裁レベルの判決もかなり割れており,最高裁の判断が待たれるところです。おそらく裁判官は,貸金業者がいったん貸付停止措置をとったら,現実に再貸付を行うことはないだろうと考えていると思われます。 ・しかし,私が扱った事案ではいわゆる家族介入事案(子供が隠れて借金していたことを親が知り,親が店舗に直接赴いて子供の債務を全額完済させ,「もう子供にお金を今後貸すな」と言った事案)でも,半年後にC社が子供に貸し付けていたことがありました。 この事案を見てもわかるように,いったん貸付停止措置をとったとしても契約者の資産状態が良くなれば貸金業者としては売上を上げるためにお金を貸すことは普通にあるのです。こういう現実を裁判官にはぜひ知ってもらうために,貸付停止措置後に実際に再貸付をした事例を裁判所に証拠として出す方がよいでしょう。 【特段の事情の基準】 ・高裁レベルの裁判例が出そろってきたこともあり,上記で挙げた最高裁平成21年判決にいう「特段の事情」に該当する場合についてそろそろ明確な基準がほしいところです。 上記に挙げた福岡高裁平成24年5月31日第3民事部判決が「期限の利益を喪失させて残金の一括請求や基本契約の解除をしない場合」でもない限り,貸付停止措置がなされたと認められないと認定していることから,この判決が一番参考になると思われます。 ・要は「再貸付の期待が完全になくなった場合」がこの「特段の事情」がある場合だと考えられるため,貸金業者が①破産等の法的整理手続に入るとの通知を受けた場合,②基本契約の解除・残金の一括請求をするなど貸金業者自らが二度と貸付けをしない意思表示をした場合など再貸付の可能性が今後一切なくなった場合でもない限り,最高裁平成21年判決にいう「特段の事情」がない解すべきであるというのが妥当だと考えられます。 ・最高裁は高裁レベルの判断を収集・分析している時期だと思われますので,最高裁もこれくらい厳しい判断を来年くらいに示してほしいと思います。 ※上記の意見・判決などの正確性等を保証するものではなく,お使いになる方の判断で情報の取捨選択をお願いします。
by lawinfo
| 2012-07-29 22:10
| 過払い訴訟論点
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