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【前科証拠を被告人と犯人の同一性の証明に用いる場合の証拠能力】
・最高裁平成24年9月7日第二小法廷判決 (事件番号:最高裁判所平成23年(あ)第670号・住居侵入,窃盗,現住建造物等放火被告事件) URL:http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=82529&hanreiKbn=02 【事案の概要】 ・被告人が平成21年9月の東京都葛飾区の住宅への住居侵入,窃盗及び現住建造物放火事件(以下それぞれ「本件住居侵入」「本件窃盗」「本件放火」という。)と北海道釧路市内の住居侵入及び窃盗事件(以下「釧路事件」という。)を犯したとして起訴された事件です。 被告人は,本件住居侵入及び本件窃盗並びに釧路事件については争わない旨述べましたが,本件放火については,何者かが上記B荘C号室に侵入して放火したことは争わないものの,被告人が行ったものではないと公訴事実を否認しました。 被告人には,平成3年4月から平成4年5月まで15件の窃盗と平成4年3月から同年6月まで11件の現住建造物等放火(以下「前刑放火」という。)を犯したとして,平成6年4月13日に懲役8月及び懲役15年に処せられた同種前科があります。 【本事案の争点】 本事案の争点は,本件放火事件における被告人と犯人の同一性です。 1審は捜査段階で作成された前刑放火に関する被告人の供述調書謄本15通等の証拠申請を情状の立証として採用したが,本件放火の事実の事実を立証するための証拠としては却下した。そして,本件住居侵入及び本件窃盗並びに釧路事件についてのみ有罪とし,本件放火については無罪としました。 【原審判示事項(概略)】 ・東京高裁平成23年3月29日判決 (事件番号:東京高等裁判所平成22年(う)第1714号) 「前刑放火11件の動機は,いずれも窃盗を試みて欲するような金品が得られなかったことに対する腹立ちを解消することにあり,上記11件のうち10件は,いずれも侵入した居室内において,また残り1件は,侵入しようとした住居に向けて放火したものであり,うち7件は,犯行現場付近にあったストーブ内の灯油を撒布したものである。被告人には,このような放火に至る契機,手段,方法において上記のような特徴的な行動傾向が固着化していたものと認められる。被告人は,本件放火と接着した時間帯に放火場所である居室に侵入して窃盗を行ったことを認めているところ,その窃取した金品が被告人を満足させるものではなかったと思料され,前刑放火と同様の犯行に至る契機があると認められる上,犯行の手段方法も共通しており,いずれも特徴的な類似性があると認められ,被告人が本件放火犯の人であることを証明する証拠として関連性がある。したがって,本件前科証拠のうち,これらの点に関するもの,すなわち前刑判決書謄本並びに上記前科の捜査段階で作成された被告人の供述調書謄本15通及び本件の捜査段階で作成された前刑放火の動機等に関する被告人の供述調書1通のうち本件放火と特徴的な類似性のある犯行に至る契機,犯行の手段方法に関する部分はいずれも関連性が認められ,証拠として採用すべきであったものというべきであり」 検察官が控訴したところ,2審は検察官の主張を認め1審判決を破棄し,事件を東京地方裁判所に差し戻しました。これに対し,被告人側が上告しました。 【最高裁判決判示事項】 「前科証拠は,単に証拠としての価値があるかどうか,言い換えれば自然的関連性があるかどうかのみによって証拠能力の有無が決せられるものではなく,前科証拠によって証明しようとする事実について,実証的根拠の乏しい人格評価によって誤った事実認定に至るおそれがないと認められるときに初めて証拠とすることが許されると解するべきである。 本件のように,前科証拠を被告人と犯人の同一性の証明に用いる場合についていうならば,前科に係る犯罪事実が顕著な特徴を有し,かつ,それが起訴に係る犯罪事実と相当程度類似することから,それ自体で両者の犯人が同一であることを合理的に推認させるようなものであって,初めて証拠として採用できるものというべきである。」 【評釈】 ・原審の判断はひどいですね。17年前の前科を漫然と証拠として使用し,結局前科者はまた犯行を犯すものだという偏見にあふれていて,被告人と犯人の同一性というもっとも基本的な事項の立証なんて前科に関する供述調書でいいといっているようなものです。 この考えを前提にすると,捜査で証拠が集まらない場合は前科に関する立証のみ行えばいいという考えになりかねず,無罪推定の原則(刑事訴訟法336条)はおろか証拠裁判主義(刑事訴訟法317条)の否定になりかねません。 ・このひどい原審判決を破棄した最高裁は英断だという評価があるかもしれません。しかし,私はまったく逆の評価をしています。 我々法律家が最高裁判所司法研修所で刑事裁判の起案をしていたころは,刑事裁判教官(=現職刑事裁判官)から,被告人と犯人の同一性の認定には絶対に前科は使用してはならず,前科で被告人と犯人の同一性を認定すると刑事裁判は落第だとされてきました。 もちろん,修習生への教育的要素があったものと思われますが,結局冤罪は捜査機関の偏見と勝手な思い込みによって生み出されてきたものですから,それを完全に除去するためには前科での立証など認めるべきではないのはいうまでもありません。 今回の最高裁判決はこの原則を修正し,一定程度の要件を満たせば前科証拠の立証を認める判決になっているようにしか思えません。 今後捜査機関としてはこの要件に該当するとして,本件に関する捜査を十分にせず,前科に関する取調べを一生懸命するようになることが危惧されます。 ・罪体(被告人の主観的認識や特殊な手口など)について同種前科での立証を例外的に認めてきたかつての最高裁判決(※)にも問題がありましたが,被告人と犯人との同一性にも前科に関する証拠を使用することを認めたことによって,今後さらなる冤罪が起こらないか不安です。 したがって,今回の最高裁判決はかなり危険な判決だったといえます。 【※罪体についてのかつての最高裁判決】 ・最高裁昭和41年11月22日第三小法廷判決・刑集第20巻9号1035頁 (事件番号:最高裁判所昭和41年(あ)第1409号) URL:http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=50785&hanreiKbn=02 「犯罪の客観的要素が他の証拠によつて認められる本件事案の下において、被告人の詐欺の故意の如き犯罪の主観的要素を、被告人の同種前科の内容によつて認定した原判決に所論の違法は認められない」 ※上記の意見・判決などの正確性等を保証するものではなく,お使いになる方の判断と責任で情報の取捨選択をお願いします。
by lawinfo
| 2012-09-10 21:11
| 刑事事件
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