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とある弁護士のひとりごと

とある弁護士のブログ。時事ネタや法律・判例情報・過払い訴訟の論点解説など
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【認定落ち】神戸地裁平成25年7月25日判決

【強姦致傷罪認定落ち判決】
・神戸地裁平成25年7月25日第4刑事部判決・丸田顕裁判長
(事件番号:神戸地方裁判所平成25年(わ)第155号・逮捕監禁,強姦致傷被告事件)
URL:http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=83652&hanreiKbn=04


【争点】
・本件では逮捕監禁罪については争いはなく,争点は強姦致傷罪の成否です。
強姦致傷に係る主位的訴因は,被告人が被害者を姦淫する前に被害者の顔面を殴打して負傷させたというものです。これに対し,弁護人は,被告人が姦淫前に被害者の顔面を殴打した事実はなく,殴打したのは姦淫後であると主張しました。
 他方,検察官の主張する予備的訴因は,被告人が姦淫後に被害者の顔面を殴打して負傷させたというものでした。弁護人は,被害者の負傷は強姦とは別の理由により生じたものであるから,強姦罪と傷害罪が成立するにとどまると主張しました。



【検察官求刑】
・懲役6年


【主文】
・被告人を懲役3年に処する。
未決勾留日数中90日をその刑に算入する。


【法令の適用】
犯罪事実第1の行為 包括して刑法220条
犯罪事実第2の行為 刑法177条前段
犯罪事実第3の行為 刑法204条


【判示事項】
「被告人と被害者の供述内容は,暴行の時期以外の点では大きな食い違いはなく,被害者が暴れた際に被告人が被害者の顔面を殴打したという点でも共通する。
 これを前提に,被害者の供述調書の信用性について検討すると,被害者にとっては,強姦の被害に遭うという重大な局面で受けた暴行については印象に残りやすいと考えられる。しかし他方,被害者は,姦淫される前後に,複数回にわたって意識がはっきりしない時期があり,また,本件直前には相当大量の酒を飲んでいたことなどからすると,認識と記憶の正確性には疑問を差し挟む余地がある(実際,強姦時の出来事の一部については姦淫との前後関係を覚えていなかったり,受けた暴行態様について曖昧な記憶しかない部分がある。)。また,被害者の供述によると,被害者はパンツを脱がされ,両足を開かれるなどした後に初めて抵抗したというのであるが,当初抵抗せず,その段階に至ってにわかに抵抗を始めたという経過にはやや不自然さが感じられる。加えて,被害者の供述時の具体的な状況は明らかでなく,記憶の鮮明さの程度や,捜査官の誘導の有無なども不明であることを踏まえると,被害者の供述調書が全面的に信用できると評価することはできない
 これに対し,被告人の供述内容はかなり具体的で,曖昧な点は少なく,前後の経過や他の客観的な証拠等に照らして明らかに不自然・不合理な点も認められない。そして,反対質問や補充質問を受けてもその供述内容は動揺していない。その供述態度には,自身に不利な点も含め事実をありのままに供述しようとする姿勢が見受けられ,暴行の時期についてのみあえて虚偽の供述をしているとも考えにくい。そうすると,被告人の供述は基本的に信用することができ,少なくとも,それが事実に反していると断定すべき決定的な事情は見出せない。
 以上からすると,暴行の時期について,主位的訴因に沿う被害者供述の信用性には疑問の余地があり,被告人供述を排斥することはできない。そして,被害者供述以外に主位的訴因を立証しうる証拠はない。したがって,被告人が姦淫前に被害者の顔面等を殴打し,負傷させたとは認められない。」


【雑感】
・量刑が求刑の半分というのは,検察の大敗北といってよいでしょう。そもそも,予備的訴因が設定されていることから,裁判所から検察官に内々に(または暗に)主位的訴因を認定できないという心証を伝えられていたのではないかと思います。

・今回の量刑が求刑のちょうど半分であることに疑問を抱いた方はいませんでしたか。判決書を読むと,本件はもう少し量刑が低くてもおかしくない事案です(ただし,累犯前科の内容がわからないので,それ次第ともいえますが)。裁判所が求刑の半額を下回る判決を書かないのは検察官が控訴審査にかけるのを嫌がって半額未満の量刑にしないためだと考えられます。
 控訴審査とは,検察庁内部で問題だと考える判決が裁判所から言い渡された場合に,事件を担当した検察官とその他の検察官とが,控訴するか否かを検討する場です。結局担当検事以外の上の決裁(次席・検事正・上級庁など)をこの後にとらないといけないので,この控訴審査の段階ですべてが決まるわけではないですが,逆にこの控訴審査にかからないと検察官は控訴しないわけですから,検察官の求刑に近い判決を書かない裁判所としては非常に気にすることになります。量刑が求刑の半額未満だとこの控訴審査にかかると言われています。
 そこで,思い切った判決が刑事事件で言い渡される場合でも,量刑が求刑の半分未満にはしないことが多いです。それは,控訴されたら自分の判断が覆されるかもしれないという原審裁判官のあまえです。
 本件がその意図をもってちょうど半分の量刑にしたか否かはわかりませんが,意外にこういう意図が隠されていることが多いことは知っていても悪くないと思います。弁護人の科刑意見が3年だったからだと思われるかもしれませんが,裁判所は弁護人の科刑意見はまったく気にしていないのが実情です(この弁護人はもっと低く言っておくべきだったと思いますが…)。

・以上,いろいろ言ってきましたが,本件の裁判官は強姦事件という被害者側のいうことをそのまま判決に書かないといろいろ世間から文句を言われるというプレッシャーの中で,自分の信念に従って,被害者の供述の信用性を否定した点はきちんと評価されるべきだと思います。これは私が弁護士だから,弁護人のいうとおりになったから評価しているのではまったくなく,あくまで法と証拠に基づいて判断するという裁判所の職責をきちんと果たした点を評価しているだけです。
 特に,民事・刑事を問わず,控訴審で覆されるのが嫌だから消極的な判決を書くという裁判官は不適格というほかなく,許せません。


※上記の意見・情報などの正確性等を保証するものではなく,お使いになる方の判断で情報の取捨選択をお願いします。

by lawinfo | 2013-10-16 23:14 | 刑事事件
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