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【遺族補償年金と損益相殺】
・最高裁平成27年3月4日大法廷判決 (事件番号:最高裁判所平成24年(受)第1478号・損害賠償請求事件) URL:http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=84909 【事案の概要】 ・Aは,長時間の時間外労働や配置転換に伴う業務内容の変化等の業務に起因する心理的負荷の蓄積により,精神障害(鬱病及び解離性とん走)を発症し,病的な心理状態の下で,平成18年9月16日,死亡した。Aの相続人である上告人らが,Aを雇用していた被上告人に対し,不法行為又は債務不履行に基づき,損害賠償を求めた。 ・上告人らは,労働者災害補償保険法に基づく葬祭料と遺族補償年金の支給を受け,又は支給を受けることが確定している。 【争点】 ・遺族補償年金についてAの死亡による逸失利益の元本との間で損益相殺的な調整をした原審の判断は,遺族補償年金等がその支払時における損害金の元本及び遅延損害金の全部を消滅させるに足りないときは,遅延損害金の支払債務にまず充当されるべきものであるとした最高裁平成16年(受)第525号同年12月20日第二小法廷判決・裁判集民事215号987頁に反するか。 【判示事項】 「不法行為による損害賠償債務は,不法行為の時に発生し,かつ,何らの催告を要することなく遅滞に陥るものと解されており(最高裁昭和34年(オ)第117号同37年9月4日第三小法廷判決・民集16巻9号1834頁参照),被害者が不法行為によって死亡した場合において,不法行為の時から相当な時間が経過した後に得られたはずの利益を喪失したという損害についても,不法行為の時に発生したものとしてその額を算定する必要が生ずる。しかし,この算定は,事柄の性質上,不確実,不確定な要素に関する蓋然性に基づく将来予測や擬制の下に行わざるを得ないもので,中間利息の控除等も含め,法的安定性を維持しつつ公平かつ迅速な損害賠償額の算定の仕組みを確保するという観点からの要請等をも考慮した上で行うことが相当であるといえるものである。 遺族補償年金は,労働者の死亡による遺族の被扶養利益の喪失の塡補を目的とする保険給付であり,その目的に従い,法令に基づき,定められた額が定められた時期に定期的に支給されるものとされているが(労災保険法9条3項,16条の3第1項参照),これは,遺族の被扶養利益の喪失が現実化する都度ないし現実化するのに対応して,その支給を行うことを制度上予定しているものと解されるのであって,制度の趣旨に沿った支給がされる限り,その支給分については当該遺族に被扶養利益の喪失が生じなかったとみることが相当である。そして,上記の支給に係る損害が被害者の逸失利益等の消極損害と同性質であり,かつ,相互補完性を有することは,上記のとおりである。 上述した損害の算定の在り方と上記のような遺族補償年金の給付の意義等に照らせば,不法行為により死亡した被害者の相続人が遺族補償年金の支給を受け,又は支給を受けることが確定することにより,上記相続人が喪失した被扶養利益が塡補されたこととなる場合には,その限度で,被害者の逸失利益等の消極損害は現実にはないものと評価できる。 以上によれば,被害者が不法行為によって死亡した場合において,その損害賠償請求権を取得した相続人が遺族補償年金の支給を受け,又は支給を受けることが確定したときは,制度の予定するところと異なってその支給が著しく遅滞するなどの特段の事情のない限り,その塡補の対象となる損害は不法行為の時に塡補されたものと法的に評価して損益相殺的な調整をすることが公平の見地からみて相当であるというべきである(前掲最高裁平成22年9月13日第一小法廷判決等参照)。 上記2の事実関係によれば,本件において上告人らが支給を受け,又は支給を受けることが確定していた遺族補償年金は,その制度の予定するところに従って支給され,又は支給されることが確定したものということができ,その他上記特段の事情もうかがわれないから,その塡補の対象となる損害は不法行為の時に塡補されたものと法的に評価して損益相殺的な調整をすることが相当である。 (3) 以上説示するところに従い,所論引用の当裁判所第二小法廷平成16年12月20日判決は,上記判断と抵触する限度において,これを変更すべきである。」 【参考判例(最高裁平成16年12月20日第二小法廷判決)】 「被上告人らの損害賠償債務は,本件事故の日に発生し,かつ,何らの催告を要することなく,遅滞に陥ったものである(最高裁昭和34年(オ)第117号同37年9月4日第三小法廷判決・民集16巻9号1834頁参照)。本件自賠責保険金等によっててん補される損害についても,本件事故時から本件自賠責保険金等の支 払日までの間の遅延損害金が既に発生していたのであるから,本件自賠責保険金等が支払時における損害金の元本及び遅延損害金の全部を消滅させるに足りないときは,遅延損害金の支払債務にまず充当されるべきものであることは明らかである(民法491条1項参照)」 URL:http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=62604 【雑感】 ・久しぶりの大法廷による判例変更。変更された方の上記最高裁判決は,民法491条からあっさり遅延損害金から充当されることは明らかであると言い切っていますが,それが約10年後に変更されることになりました。 ・矛盾する2つの最高裁判決をどちらに統一するかが争点でしたが,元本から充当するということで実務は確定したといえます。 ・遅延損害金から充当せず元金から充当することで,金額としてはかなり減ることになります。 ※上記の意見・情報などの正確性等を保証するものではなく,お使いになる方の判断と責任で情報の取捨選択をお願いします。
by lawinfo
| 2015-03-04 23:21
| 労働事件
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