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【公判停止後訴訟能力の回復ない見込みがない場合の公訴棄却の可否】
・最高裁平成28年12月19日第一小法廷判決 (事件番号:最高裁判所平成27年(あ)第1856号・ 殺人,銃砲刀剣類所持等取締法違反被告事件) URL:http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=86355 【問題点】 ・被告人が公訴提起後心神喪失状態になり,公判が停止された後,被告人が回復見込みのない場合には,検察官は公訴を取り消す権限を有するが(刑事訴訟法257条),検察官が公訴を取り消さない場合に,裁判所が公訴棄却をする明文が存在しない。 本件は第1審で公判停止後17年間経過した後,名古屋地裁岡崎支部は公判を再開し,公訴棄却の判決を言い渡したが,第2審名古屋高裁は公訴棄却を認めず,破棄差し戻しをした。これに対し,弁護人が上告した。 【参照条文】 ・刑事訴訟法257条 「公訴は、第一審の判決があるまでこれを取り消すことができる。」 【判示事項】 「訴訟手続の主宰者である裁判所において,被告人が心神喪失の状態にあると認めて刑訴法314条1項により公判手続を停止する旨決定した後,被告人に訴訟能力の回復の見込みがなく公判手続の再開の可能性がないと判断するに至った場合,事案の真相を解明して刑罰法令を適正迅速に適用実現するという刑訴法の目的(同法1条)に照らし,形式的に訴訟が係属しているにすぎない状態のまま公判手続の停止を続けることは同法の予定するところではなく,裁判所は,検察官が公訴を取り消すかどうかに関わりなく,訴訟手続を打ち切る裁判をすることができるものと解される。刑訴法はこうした場合における打切りの裁判の形式について規定を置いていないが,訴訟能力が後発的に失われてその回復可能性の判断が問題となっている場合であることに鑑み,判決による公訴棄却につき規定する同法338条4号と同様に,口頭弁論を経た判決によるのが相当である。 したがって,被告人に訴訟能力がないために公判手続が停止された後,訴訟能力の回復の見込みがなく公判手続の再開の可能性がないと判断される場合,裁判所は,刑訴法338条4号に準じて,判決で公訴を棄却することができると解するのが相当である。」 【雑感】 ・この件は立法の不備といえば不備であるものの,有罪判決を下すことができないことが明らかであるにもかかわらず,検察官が何十年にもわたり公訴を取り消さなかっことがなによりの問題です。 ・検察は遺族の処罰感情が大きかったからとコメントしているものの,いずれにしても裁判所が有罪判決がくだせないこと自体は法曹であれば誰にでもわかることであり,長く引き伸ばされることにより遺族が区切りをつけることができず,結局ストレスがたまり続ける結果になっただけで,かえって有害といえます。 実際にもこの最高裁の判断で遺族はまた新たな不満を表明しており,検察の判断が本当に遺族のためになったのか甚だ疑問です。検察としては,責任は裁判所にあるとして遺族の不満のはけ口を検察に向けさせないためだけに公訴取消をしなかったのではないかと邪推してしまうほどです。これはただの責任逃れです。 ・この問題とは別に法律問題としては,名古屋高裁が「検察官が公訴を取り消さないことが明らかに不合理であると認められる極限的な場合に当たる」場合は,公訴棄却にあたる可能性を指摘したうえで,本件はその場合に当たらないと判断していますが,本件はその極限的な場合にあたるといってもよかったのではないかとも思えます。 この表現は職務犯罪を構成する極限的な場合以外は公訴提起が無効とならないという公訴権濫用論を受けた表現だと思われるものの,この議論はあくまで公訴提起を無効とする場面の問題で公訴取消の場面とはまったく状況が異なるため,そこまで極端な場合を想定する必要はないと思われます。実際に,名古屋高裁も「職務犯罪を構成する」という例示をつけていません。 そのように考えると,第1審で公判停止後17年が経過し,統合失調症のみならず,脳委縮による認知機能の障害があり,回復見込みがないと客観的にいえる場合は,名古屋高裁がいうところの「極限的な場合」に該当するといえるのではないかと思います。 ※上記の意見・情報などの正確性等を保証するものではなく,お使いになる方の判断と責任で情報の取捨選択をお願いします。
by lawinfo
| 2016-12-20 23:36
| 最高裁
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