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とある弁護士のひとりごと

とある弁護士のブログ。時事ネタや法律・判例情報・過払い訴訟の論点解説など
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2013年 08月 27日 ( 1 )


【一部無罪判決】横浜地裁平成25年7月30日判決

【恐喝無罪判決】
・横浜地裁平成25年7月30日第6刑事部判決(景山太郎裁判官)
(事件番号:横浜地方裁判所平成24年(わ)第1906号等・恐喝,覚せい剤取締法違反)
URL:http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=83502&hanreiKbn=04


【恐喝公訴事実】
「被告人Bは,人材派遣業「C」を実質的に経営していたもの,被告人Aは,Cにおいて派遣した従業員の管理,監督を担当していたものであるが,被告人両名は,Cの従業員であるD(当時48歳)に因縁を付け,借金返済の名目で現金を脅し取ろうと企て,共謀の上,平成23年3月10日午後7時頃,神奈川県平塚市a町d番e号メゾンEf号室のCの事務所において,同人に対し,「借用書を書け。書かないと帰さないぞ。書かないと若い衆を使って半殺しにするぞ。」などと申し向けて,DにCから34万200円を借用し,これを全額返済する旨の借用書を作成させた上,さらに,「支払わずに逃げたら落とし前をつけてもらう。逃げたらどこまでも追い込みをかける。踏み倒したら若い衆を使って,絶対に探し出して,アンカー付けて海に沈めてやる。」などと語気鋭く申し向けて現金の交付を要求し,もしこの要求に応じなければ,同人の生命,身体等にいかなる危害を加えかねない気勢を示して脅迫し,同人を怖がらせ,よって,その頃,同所において,同人から現金14万円を喝取した。」


【検察官求刑】
懲役4年,覚せい剤1袋の没


【主文】
「被告人Aを懲役1年10月に処する。
 被告人Aに対し,未決勾留日数中230日をその刑に算入する。
 被告人Aから,横浜地方検察庁で保管中の覚せい剤1袋(同庁平成24年領第2710号の23)を没収する。
 本件公訴事実中恐喝の点については,被告人両名はいずれも無罪。」


【恐喝公訴事実に対する判示事項】
「4 借用書作成につながる脅迫がなかったとすると,説明に窮するような事情がないかどうかについて改めて検討する。
 まずは,借用書作成の経緯である。借用書記載の借金の内容は,正当な根拠のないものが多いから,Dが何らかの特別な心理状態にあって借用書を作成したことは間違いない。
検察官が主張するように,現場にいた被告人両名とDとの関係,Fの発言(さらには,Dの供述を信用できるとして,内容証明郵便を送ったことに関してした被告人Bの発言)等を考えると,借用書作成時に威圧的な状況があったことも肯認してよいであろう。しかし,現金の交付について本件恐喝が成立するには,その原因となる程度の脅迫行為が存在したことが必要であって,何らかの威圧的状況だけでは,恐喝を認定することはできない。Dが,それまでの被告人両名との関係等を考え,仮払金という正当な請求に加え,項目としては何らかの返済義務があることは否定し難いものも含まれる計算書を示されて,動揺し(本人も頭がパニックになったと供述しているが,なぜパニックになったのかは供述上不明確である。),逐一文句や反論を言うことができず,あるいは,文句等を言っても聞き入れてもらえないと諦めて,借用書作成に渋々ながら応じた可能性も考えられないではない。
 さらに,Dが脅迫されたと供述した理由である(そもそも恐喝の被害届を出した理由とも関係する。)。上記のように,偽証罪の制裁,背後の暴力団組員による報復も予想される中で,あえて被告人両名に不利な虚偽の供述をするかという疑問である。しかも,本件恐喝の起訴がされる直前には,示談金20万円を受け取っており,今更恐喝があったことを立証しても,Dが更に何らかの利益を得られる見込みは乏しいと思われる。しかし,示談したにもかかわらず,被害届を取り下げなかった理由について,Dは,示談の際に被告人Bの弁護人から被告人両名が恐喝の事実を認めたと聞いたのに,検察官から電話で被告人両名が認めていないと聞いたからである旨供述したが,この説明は,示談契約書に被告人両名が事実を認めた旨の記載がないことと整合しない。Dの説明を全くの虚偽とは断じ難いにしても,示談契約書の記載内容と整合しないDの説明のとおりの経緯であったともいえない。このことも考えると,供述の一貫性維持,被告人両名に対する何らかの屈折した感情,Dの性格,記憶の混同,誤った記憶の形成等が原因となって,Dが事実と異なる供述をしたことも考えられないではないのである(被害届の提出に関しても,上述した3月10日以降のDの行動を見ると,いろいろと相談するうち,脅されるようなことでもなければ,そのような借金を背負わされることはないはずであると指摘され,14万円を取り戻そうと動いたということなどが考えられないわけではない。)。
 なお,被告人Bが,Dに対し正当な根拠のない高額過ぎる請求をし,14万円を回収した理由がもう少し明らかになれば,別の認定もできるかもしれない。しかし,差し当たり,前述のように,偽装結婚の話に絡む何らかの思惑が背景にあったことなども推測できないわけではないものの,証拠上それは明らかでないといわざるを得ない。
5 以上を要すると,前述のように,脅迫があった可能性はかなり高いとはいえるが,これを認定するには合理的な疑いを差し挟まない程度に脅迫があったとの確信に至ることが必要である。Dの供述に対する疑念は,個々に見れば,いずれもわずかなもので,他の説明も不可能ではないが,これらが重なると,一定の疑いとなって残る。そして,Fの供述や被告人両名の各供述も,軽視ないし排斥し難い面を持っており,Dの供述の信用性をある程度揺るがす要素となり得る。さらに,脅迫がなかったとしても,必ずしも説明に窮するとまでいえるような事情は存しない。それらを併せ考えると,Dの供述に,現金交付につながる脅迫があったと上記の程度に確信させるほどの,すなわち本件恐喝を認定し得るほどの高い信用性は肯定し難いといわなければならない。」


【雑感】
・証人と被告人の公判供述を詳細に認定して無罪を導いた判決です。「判断のポイント」「判断の要諦」という見出しをつけた判決は初めて見ました。
・景山裁判官は司法研修所の元刑事裁判教官。最近の無罪判決は,元刑裁教官や元最高裁調査官が多い気がします。エリート裁判官は出世を考え安全策で無罪判決を書かないと思っていましたが,むしろきっちり認定するとやはり有罪判決は書けないとまじめに考えられ,エリート裁判官の方が無罪判決が出る確率が高くなった気がします(そうでない裁判官は事なかれ主義で,検察官のいいなりになっているのかもしれません)。


※上記の判決・意見などの正確性等を保証するものではなく,お使いになる方の判断と責任で情報の取捨選択をお願いします。

by lawinfo | 2013-08-27 23:41 | 刑事事件